シンポジウム
2021年(令和3年)2~3月Web開催
酪農現場のリスク管理を考えるⅡ-「暑熱」を考える-
乳牛への暑熱の影響と飼料給与面での対策
ハードサポート株式会社代表 村上 求 氏
飼養環境の気温が20℃を超えると乳牛は暑熱ストレスの影響を受けはじめる。暑熱ストレスは気温だけではなく、湿度も加味したTHI指数で評価される。
乳牛への暑熱の影響に乾物摂取量の低下があげられる。飼料計算ソフトAMTS.Cattle.Professionalでは平均温度が15℃から25℃、かつ平均湿度が50%から70%に変化した場合、0.4㎏/日の乾物摂取量の低下が予測される。さらに夜間の温度が20℃を下回らない状況では1.7㎏/日の低下が予測され、夜間の温度低下がない場合の影響の強さが伺われる。
乾物摂取量の低下は乳量低下の大きな要因ではあるが、乳量低下の50%以下しか説明していない。暑熱ストレスは様々な代謝の変化をもたらし、暑熱時のインスリン分泌の高まりは乳腺への糖配分を減少させ乳量の低下を招く。エネルギー不足の際に通常見られる体脂肪の動員は暑熱時では抑制される。暑熱時の酸化ストレスの亢進は免疫の低下を招き、乳量の低下を助長し、乳房炎、胎盤停滞、早産を招く。暑熱時の体表面への血液循環の移行は腸細胞への栄養不足をもたらし、腸表皮細胞の防御機構を低下させ、LPSや病原性微生物が透過しやすい状態、いわゆるリーキーガットを招く。その他、繁殖成績の低下、蹄葉炎の発生、乾乳期を暑熱条件下で過ごした場合の分娩後の乳量低下も暑熱の影響にあげられる。
暑熱時の飼養管理での対策には、涼しい時間帯でのTMR給与、多回給餌、プロピオン酸やギ酸の添加による飼料の変敗防止があげられる。
栄養面での対策は、様々な代謝の変化による悪影響を緩和することが目的とされる。消化率の高い粗飼料や糖分、バイパス油脂の給与によるエネルギー供給の改善、有効センイの確保や重曹の添加によるアシドーシス対策、ビタミンE、セレン、ビタミンAなどの抗酸化剤の添加が栄養面での対策としてあげられる。しかしながら栄養面での対策は、乾物摂取量の低下や代謝の変化の根本を改善する訳ではない。やはり乳牛を冷却する環境面での対策が最重要とされる。