シンポジウム

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2018年(平成30年)1月31日

酪農現場の"カイゼン"を考えるⅡ-牛づくりにおけるロスとその対策-

意見交換

講演者

堂地 修 氏酪農学園大学家畜繁殖学教授

石井 三都夫 氏(株)石井獣医サポートサービス代表取締役

椋本 正寿 氏北海道農政部畜産試験場上席普及研究員

座長

松田 徹雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 担当部長

柳瀬 兼久雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 リーダー

座長

今回、会場からのかなり多くの質問票が寄せられました。時間が許す限りご回答いただく方向で進めさせていただきたいと思います。

堂地先生への質問

質問

雌雄選別されたメス精液は活力が少し弱くなると聞いているが、授精適期は通常の人工授精(以下、AI)と同じで良いか。

回答

雌雄選別精液は通常の精液と比べ精子数も少なく活力も違う。文献によると雌雄選別された精液は生体内で6時間ほどしか生存しないのではないかとの報告がある。したがって通常精液でのAI理論とは少し考え方を変えなければならない。通常精液は注入後10時間ほどかけて受精部位に到達し、一旦絨毛に捕捉され、そこで受精能を獲得することが報告されている。そして排卵時に放出される卵胞液がシグナルとなり精子は絨毛からリリースされ最終的な受精部位に到達する。よって排卵の10時間前には授精しなくてはならないというのが1980年代に主にイギリスでの研究をもとにした理論である。
一方、選別精液は生体内での生存時間が短いので通常精液より遅いタイミングで授精する必要がある。雌雄選別精液は精子数が少なく、生殖道内での生存時間の短さから受胎率は下がる傾向にあるが、品種によっては通常精液とあまり変わらないという報告もある。オランダ、ドイツ、スウェーデンなどの選別精液のデータをみると通常精液より若干劣る傾向にあるものの極端な差はみられない。
現状、精液の選別はDNAを染色し発光させ雌雄の篩い分けを行なっている。ところが先日、国際学会でアメリカ企業から新しい雌雄選別方法が進んでいるという話を聞いた。それはY精子もしくはX精子のみをレーザー光で退ける方法である。この方法は回収したい精子へのダメージが無いため受胎率の改善が期待される。世界各国の企業がこの新しい技術の開発に取組み、学会でも報告されているので、今後、選別精液の受胎率向上は十分に期待できる。

質問

NEB(=負のエネルギーバランス)の時期に発育した卵胞は、状態が悪く受胎率低下や空胎日数延長に繋がっているとのことだが、その期間に受精卵移植(以下、ET)を行なった場合、子宮環境は正常と仮定して、人工授精に比べて受胎率改善が望めるか? 実際の現場データなどはないか。

回答

ボディコンディションスコアが下がっている状態で発育した卵胞にAIをしても受胎率は低いと思われる。その状態でETをする場合は、黄体の形成状態と卵胞内の卵子の品質次第で受胎率に差が出るであろう。黄体がしっかり形成されていれば受胎率はAIより高くなる。

質問

リピートブリーダーへの追い移植(AI+ET)で生まれた子牛はAI由来とET由来のどちらが多いか。それとも双子になるのか。

回答

我々の実験データでは、初期はET由来の子牛が多かったが、最近はAI由来の子牛が多い。これは実験条件によって差が出ると思われる。つまり、追い移植では体外受精卵を使用することが多く、その品質によるのではないかと考えている。また双子率は多くない。双子を目的に2卵移植すると、おおよそ4割程度の双子率となる。ちなみに双子の場合は単子より1週間から5日程度分娩が早くなるので注意が必要となる。 AI後のETでなぜ受胎率が向上するのかについて詳細はわからない。しかし予想されるメカニズムとしては、低品質の卵子が受精卵になっても分泌するインターフェロン・タウ(妊娠認識物質)の濃度が低いため、子宮は受精卵の存在を感知できないと考えられる。その状態でETによって受精卵が2つになれば、分泌される物質の濃度が上昇し受胎率向上につながるのではないかと私も論文で考察を報告させていただいた。実際、正常な牛に正常な受精卵を2個移植した場合の受胎率は非常に高くなる。過去に我々が実施した実験では9割に近い受胎率データも得られた。つまり、子宮が受精卵を認識する機会を多くすることで受胎率は上がる。

質問

見落としによる初回授精日数の遅延はかなり重大な問題だと思う。その意味では検診を取り入れて、可能ならばホルモン誘起してでも80~90日のうちに初回AIをすることはそれなりに効果があると思われるが、先生のご意見をお聞かせ頂きたく。

回答

ホルモン処置により一定期間に種付けを目指すのは酪農経営の繁殖プログラム戦略としては有効と考える。ただし、そのときはある程度受胎率を目測しておくことが大切である。初回種付けが2割、3割でも良いのであれば使えると思う。つまりフレッシュチェックをいつ実施するかということになる。我々が調べたところ、日乳量40~50kgのホルスタインの初回排卵は35~40日が普通と思われるが、遅れる牛は60日にもなる。初回排卵が遅れる牛にホルモン処置をして繁殖プログラムを組んでも効果は低い。今は様々な発情・排卵の同期化プログラムがあるが、卵巣周期が機能していない状態で無理矢理実施してもなかなか効果は無いと理解した上で行なうべきであろう。

質問

アメリカで受胎率が上がり始めた時期とゲノミックが活用された時期にズレがあるのではないか。

回答

アメリカのUSDAのデータを使っている『デイリーサイエンス』の論文をみると、繁殖形質にかかわる遺伝的改良の研究は2000年くらいからヨーロッパやアメリカで盛んに行なわれてきたことがわかる。その論文の内容からすると遺伝的改良は、例えば娘牛の受胎率などを調べていた。最近のゲノミック評価とその時代の遺伝的検討は内容が違うので混同しない方が良いと思う。最近の種牛選抜は、種牛側の子供たちの受胎率を考慮しているので次第に結果が明らかになるのではないだろうか。

質問

酪農学園大では具体的にどのようなプログラムで繁殖成績を遺伝的に改良しようとしているのか。

回答

今年から育成牛のゲノミック評価をトライアルしているので、その結果を利用して繁殖性も考慮したなかで交配プログラムを作っていきたいと思っている。

石井先生への質問

質問

スライド「分娩環境が生産性に及ぼす影響」のなかで、衛生状態を“清潔”・“普通”・“汚染”に分けているが判断基準はどうしているのか。チェックリストのようなもので分別しているのか。

回答

結論から言えば主観的な判断が多い。ただ明らかに“汚い”というのは、牛が寝たときに必ず糞の汚れが付着するだろうし、“普通”は寝たときに糞の汚れが付くかもしれないが汚い場所は避けて寝ることができる、“綺麗”はどこに寝ても糞が付くことはないだろうという判断で行なっている。今後もこの基準でデータを作っていこうと思っている。

質問

分娩3時間後に胎盤が排出されない場合はオキシトシンを打つとのことだが、エストラジオールを併用したほうがより胎盤が排出しやすくなるのではないか。

回答

私の場合は分娩後3時間ほどでオキシトシンを打つが、その頃は子宮内のオキシトシン受容体が活性化しているときである。もちろん最も活性するのは分娩時だが、その後3時間くらいはオキシトシン受容体の活性は持続するので、オキシトシンに対する反応は非常に良い。よってエストラジオールを併用しないでオキシトシンを単体で使用している。注射量はバイアル1本(50IU、5cc)使用している。その1時間後(分娩後4時間)でも胎盤が排出されない場合はもう1本打つことを勧めている。この1時間にも理由がある。注射を打って1時間くらいは、血中オキシトシン濃度は元のレベルに低下しないため、さらにオキシトシンを加えることで血中オキシトシン濃度を上げることができると考え2回打ちを勧めている。 オキシトシンを打つタイミングは分娩後3時間であるが、これにも理由がある。分娩から6時間を経過すると胎盤停滞の影響が強く出るため、できれば後産を6時間までに排出したいので逆算すると3時間となる。6時間を超えてオキシトシンを注射するとオキシトシンに対する子宮の反応が悪くなり後産が落ちないなど思わしくない結果になりやすい。よって分娩から3時間が勝負と考えている。

質問

乾乳牛舎(フリーバーン)の床はマットや土などいろいろあると思うが、一番良い床は何か。

回答

乾乳牛はぜひ外のパドックで飼って欲しい。パドックがなければ作って欲しいとお願いしている。 今、私は低カルシウム血症の調査もしており、そのなかに潜在性低カルシウム血症がある。潜在性低カルシウム血症の定義は、分娩から3~4日経過しても血中カルシウム濃度が8.6を下回る状態をいうが、大型農場の半数近い牛たちが潜在性低カルシウム血症の状態にある。その原因の1つは太陽光を遮る牛舎環境だと考えている。特に大型農場は通年舎飼の傾向が顕著である。カルシウムのコントロールに欠かせないのがビタミンDであり、そのビタミンDは日光を浴びることで活性化される。ビタミンDを活性化させるためにも、日光が当たるパドックを作ることを勧めている。また、床は滑らずに運動できる状況が望まれる。コンクリートの床ではゆっくり歩くことしかできない。長命のための活性物質は骨から分泌されるとの話もあるので、運動することで骨に刺激を与え、日光に当たることでビタミンDを活性化させることが大切だと思うので、ぜひパドックを作っていただきたい。
分娩房も同様で、歩きやすく、寝起きしやすい環境が望まれる。理想でいえばパドックのような場所で分娩させるのが良いかもしれないが、それが現実的に難しいとなればマットを敷くのも選択の1つになり、その場合はマットの上に大量の敷き料を入れてもらいたい。マットではない場合は火山灰をしっかり固めてからたくさんの敷き料を敷き詰めるのも良いと思う。コンクリートをむき出しにしないことがポイントと考える。

質問

分娩時、へその緒が切れずに残るのは臍帯血が子牛に流れていくことなのか。詳しくお聞きしたい。

回答

へその緒には臍静脈と2本の臍動脈がある。臍静脈は胎盤から子牛に流れる血液で、これは子牛に栄養や酸素を供給している。反対に子牛から流れ出て行くのが臍動脈で、これが先に切れると出血が起こりやすくなる。臍動脈が切れるとゴムのように縮み腹部に引っ込んでしまうため、腹部内での出血が続くことになる。分娩時に強い牽引をした子牛の血液を採取しヘマトクリット値を調べてみると、値が下がっていることが多く、このことから母牛側から入り込む血液は少なく、出血が多いことが窺われる。
また、産道で強い圧迫を受けた場合、子牛の血液循環は滞ってしまう。へその緒も同様で、産道の圧迫によって母牛側から供給される血液は滞るが、胎児からの動脈は多少圧迫されても動くため、胎児側の血液のみが減少し貧血になるというメカニズムであると考えている。

椋本先生への質問

質問

スライド「過密飼養による牛の反応と損失」について、過密飼養とは牛床数に対する乳牛頭数と理解しているが、1頭当たりの餌槽幅が狭い場合や通行制御がある場合は行動や反応の変化がどのようになるのかお聞きしたい。

回答

過密による「行動変化」は以下のとおりである。

  • 飼槽での闘争増加。
  • 採食スピ-ド早くなる。
  • 休息時間が減少する △6%(50分/日)。
  • 通路の起立時間が増加する。
  • 反芻時間が減少する △7%(30分/日)。
  • ル-メンpHが低下する △0.08(特に夜中に低下する)。

「行動変化による反応」は以下のとおりである。

  • 乳量が減少する(△1.3~1.6kg/頭/日)。
  • 乳脂肪率が低下する(△0.1%/頭/日)。
  • 過密でル-メンpH<5.8の時間が増加する(+1.4時間/日)。
  • 飼料中peNDF減少によりル-メンpH<5.8の時間が増加する(+0.9時間/日)。
  • 体細胞数が増加する。
  • 疾病が増加する。
  • 跛行が増加する。

質問

1日4回以上の給餌は牛の反芻や横臥時間の減少につながるとのことだが、ロボット搾乳牛舎でも同様か。またロボット搾乳牛舎の理想的な給餌回数は何回か。
また、搾乳ロボット内で“寄せエサ”として給餌する濃厚飼料も牛に影響を与えるのか。また搾乳ロボット内での濃厚飼料の給与回数は何回が理想か。

回答

ロボット牛舎の場合、ロボット内での濃厚飼料の多数回給与と部分混合飼料(以下、PMR)給与の牧場が多いと思うが、理論的には1日2回程度のPMR給与が理想と考える。
また、搾乳ロボット内で給与する濃厚飼料の牛への影響は以下のように考える。一般的に牛が搾乳ロボットに入ると、1日の濃厚飼料摂取量の一部を搾乳中に摂取することになる。濃厚飼料は牛を搾乳ロボットに引き付ける手段として使用されるが、残りはPMRとして飼槽で供給される。搾乳ロボットの栄養プログラムを設計する際には、牛の摂食パターンを考慮する必要がある。PMRを1日に1回給与するより1日に2回給与する方が、牛が搾乳ロボットを訪問する強い刺激となるようである。
搾乳ロボットで給与する濃厚飼料の理想的な量は進化しているが、海外の研究では、搾乳ロボットでの1日当たりの配合飼料給与量が約4kgを超えると、給与するすべての濃厚飼料を採食できない牛がいることが示されている。濃厚飼料給与量の増加はSARA(亜急性ル-メンアシド-シス)のリスクを増加させ、PMRの摂取量を減少させ、不均一な搾乳頻度につながる。
通常、牛は1日に3回程度、搾乳ロボットを訪問する。したがって、各牛は搾乳ロボットで濃厚飼料を食べる回数が限られ、各訪問での滞在時間も限られる(約7分)。さらに、牛はペレット状濃厚飼料を毎分0.25~0.40kgのしか食べることができないので、濃厚飼料は1回の訪問につき1.0~1.5kgに制限すべきであるとの指摘もある。ペレット状濃厚飼料は、マッシュまたはフレ-ク&ペレットの形状よりも好ましいと言える。ある状況では、また、濃厚飼料に香味を添加することで搾乳ロボットへの訪問が増加する。研究者らは、1日当たりの濃厚飼料摂取量が8.0kgを超えるアプローチは失敗すると結論づけている。 上記のことから、濃厚飼料の理想的な給与回数についても、回数ではなく3回程度の訪問で食べられる量が重要になる。

質問

カウ コンフォート インデックス(以下、CCI)は、一日のうちどの時点で評価するのが良いか。パーラー搾乳の場合、搾乳後が牛の最もリラックスしている時間だが、ロボットでは常に牛が動いている。ロボット搾乳牛群とパーラー搾乳牛群でCCIの違いはみられるか。

回答

給餌後2時間以上経過し、牛群の7~8割がエサを食べ終わると牛はベッドに横臥し始める。ベッドの状態を評価する指標でもあるので、採食後の牛が気持ち良くベッドで横になるかをみるため採食後2時間以降に評価すればよい。    FS牛群とロボット搾乳牛群との違いの知見は持ち合わせていないので正確にお答えできないが、ベンチマ-ク(基準値)として最小が0.8、管理の優れた牛群で0.85以上なので、0.8以上を判断基準として良いであろう。

質問

講演にて紹介されていたファーム アニマルケア プログラムのほかに、GAP(JGAP、グローバルGAP等)、農場HACCPなど多くの認証制度がある。それらの管理内容はそれぞれ微妙に違っており農家はその選択に困惑しているが、その点についてどのようなお考えをお持ちか。

回答

農場HACCPはすでに運用されているが、併せて最近になって国が力を入れているのが日本版GAP(以下、JGAP)である。現在、畑作や園芸が先行しており、畜産は先日になって農林水産省が説明会を行なったところなので運用は今年の秋以降になると思われる。では、なぜJGAPが推奨されているかというと、2020年に開催される東京オリンピック、パラリンピックに提供される食材の調達基準としてJGAP認証品を優先採用しようという動きがあるからである。それに向けて畜産もJGAPの審査制度確立をはじめ、取組みが本格的に進むと思われる。
また、なぜ私が講演にて北米の取組みを紹介したかというと、ファーム アニマルケア プログラムは認証のみが目的ではなく、酪農家、農協組織、乳業メーカー等が一体となって展開している点が個人的におもしろいと思ったからである。認証を取り、自分の畜産物に付加価値を付けることは非常に素晴らしいことであるが、産業全体が向上していくことは大変意味深いし、それが理想だと思う。

座長

そのほかにも質問票が寄せられていますが時間となりましたので、ここで意見交換を終えさせていただきます。三人の先生方、大変ありがとうございました。

当日、意見交換にて質問できなかった質問票とその回答

堂地先生への意見

質問

本日は貴重なお話ありがとうございました。
私の牧場では乾乳牛を繋ぎ牛舎で飼っている。同じ牛舎に分娩房(独房)もあるが、現在は移動がストレスになるのではと考え、繋いだまま産ませることが多く、分娩房をうまく使えていない状況である(初産はフリーバーンにて分娩)。 移動のタイミング等、指標があればお教えいただきたく。

回答

同じ牛舎であれば、分娩の兆候が表れたら分娩房に移動すれば良いと思う。具体的に言えば尻尾を上げ始めた時点、あるいは1回目の破水があった後、牛舎内の移動であれば足が出てからでも良い。

質問

初産、経産に関係なく、分娩後の牛でNOSAI獣医師より「産道に傷がある」と指摘されることが多い牧場がある。その牧場は分娩後に熱を出す牛が多い。無理な助産はしていないようであるが、それ以外に産道が傷つくことはあるのか。また、その対策について教えていただきたい。

〈牧場規模〉

  • 搾乳牛400頭、乳量10,000kg
  • 乾乳牛のBCSは3.5~3.75、4.0以上も多い
  • 乾乳前期はFS、後期はFBにて飼養
  • 分娩は後期と同じ場所(ただし狭くはない)

回答

初産牛は自然分娩でも多少の擦り傷はあり得るが経産牛ではほとんどない。経産牛でも産道に傷がある場合は助産の方法に原因あると思われる。ある程度母牛にふんばってもらった後でゆっくり助産し(産道を緩めながら)、牽引する際に無理をしなければ産道に傷を付けずに助産することもできるかと思う。助産器を使用する場合も一気に引き出さず、少しずつ産道を広げながらゆっくり助産するのがカギである。また産道に傷がついた場合は放置せず、分娩当日に抗生物質の投与を行い、痛みがある場合には鎮痛消炎剤の投与を行うべきである。

椋本先生への意見

質問

先ほど石井先生は“分娩房は単独になりながらも仲間の牛から見える環境が良い”と話され、椋本先生は“囲われている環境を牛は選ぶ”とのことだが、どちらの環境が良いのか。

回答

乳牛は基本的に群行動を好む動物のため分娩時期が近くなるまでは他の牛と一緒に過ごす。講演の中で話したように、「囲いあり」と「囲い無し」の両方の環境を用意した場合、分娩牛の多くは「囲いあり」の場所を選択して分娩する。特に日中分娩の牛が圧倒的に「囲いあり」の環境を多く選択している。このことから、乳牛は分娩する時だけ他の牛から離れて(隠れて)分娩する環境を好むと思われる。分娩予定牛を放牧地やパドック等で飼養している農場の場合、分娩の時だけ他の牛から離れて、遠くの見えない場所(笹藪や森林の中)でそっと子牛を産んでいる。これが乳牛の自然な行動と思う。
「囲い」は牛舎内にこの環境を作るという意味で、自然な行動をとれる環境に近づけることが大切と考える。海外の試験結果は講演で話したとおりであり、現在、北海道内の酪農場でも試験中である。スライドの写真は監視カメラで撮影した。乳牛にとってどちらの環境が良いかは牛が決めることと判断したい。

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