シンポジウム

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2016年(平成28年)1月29日

創立40周年記念シンポジウム「日本酪農の可能性 -人・牛・飼料-」

規模拡大を目指した搾乳ロボット利用技術

根釧農業試験場地域グループ主査 堂越 顕 氏

1.はじめに

1997年に初めて北海道の酪農家に導入された搾乳ロボットは、2015年2月現在では150戸(214台)の農場に導入されており(北海道農政部生産振興局畜産振興課,2015)、今後とも導入が進むと考えられる。根釧農業試験場では1997年より、オランダと国内における先進事例を調査し、導入条件を明らかにすることから始め、2003年から搾乳ロボット牛舎を建築し、馴致方法や栄養管理方法などの技術開発を行うとともに、経営モデル作成のために導入農場の経営調査を行った。これまでの調査では、規模拡大を目的としてつなぎ牛舎からフリーストール牛舎を新築する農場が多くを占めていたことから、これまでの研究成果を基に、規模拡大を目指して搾乳ロボット導入を検討している農場を対象として、その導入条件(牛・施設・人)と導入技術について解説することとする。

2.導入の目的

最初にロボットを実用化し、導入が最も進んでいるのはオランダである。その理由は当時のオランダ国内の農業政策(生産調整)が大きく関連している。オランダでは出荷乳量と頭数規模拡大の制約のため酪農経営の方向は生産コストの低減と労働生産性の向上となり、省力化と多回搾乳による乳量増加を達成できる搾乳ロボットの導入が進んだと考えられる。
その一方で、道内における導入農場を調査すると、搾乳ロボット導入と同時につなぎ牛舎からフリーストール牛舎を新築し、80頭以上の経産牛を飼養する農場が多かった。これらの農場を経営調査すると、安定的な収益を得るために必要な出荷乳量は年間900t以上となり、導入後の所得確保のためにも規模拡大は不可欠であると考えられた。

3.導入の条件

  • 不適応牛への対応

    搾乳ロボットは乳頭・乳房形状がセンサーで検知できない牛や自発的に搾乳ストールに進入しない牛は適応できない。これらの不適応牛の割合は2~3割程度であり、特につなぎ牛舎からの移行では多い傾向がある。そのため、導入時の乳牛の選別と導入時の馴致が重要になる。特に、規模拡大を伴う場合は、牛の淘汰や新規購入はリスクが高いため、導入前から後継牛を多く準備し、搾乳ロボットへの移行5~7日前には、新しい牛舎に牛を馴致する(搾乳はしない)ことが必要である。

  • 牛舎設計

    現状では、1頭用の搾乳ロボットでは60頭牛群で設計する事例があるが、規模拡大を目指す場合は75頭程度の牛群規模で設計することが勧められる。これは、多回搾乳により乳量増加を目指すよりも、頭数増加による出荷乳量の増加を目指した方が得策であるためである。
    また、牛床構造などは乳牛の快適性に十分配慮して設計することが肝要であり、牛舎レイアウトはゲートなどによるカウトラフィックシステムを採用せず、一般的な牛舎レイアウトとし、できるだけ牛の行動を制約しないことが勧められる。

    さらに、規模拡大のためには搾乳ロボット牛群以上の乳牛を飼養する必要があるため、これらの乳牛を飼養し、搾乳する施設が必要である。これらの施設は、搾乳ロボット牛舎にできるだけ近い場所にして、牛の移動を省力的にできるように配置することが重要である。

  • 飼料給与方法

    搾乳ロボットには搾乳中に濃厚飼料を自動的に給与する装置が装備されているが、搾乳時間内で採食できる濃厚飼料の給与量の上限は6kg/日となり、これ以上給与すると搾乳処理能力を低下させる。そのため、牧草サイレージ主体飼養条件では飼槽に混合飼料を給与する必要があり、細切サイレージを前提とした粗飼料収穫・調整が必要である。飼料給与方法は基礎乳量を28kg/日(TDN73%、CP13%)とした混合飼料を飼槽に給与するとともに、搾乳ロボットによる濃厚飼料給与(TDN 88%、CP 21%)を乳量とボディーコンディションスコアで調整(上限6kg、下限0.5kg)することが適当である。

  • 管理作業

    搾乳ロボットの作業は乳牛を搾乳ストールへ追い入れる作業、装着できなかった乳牛の搾乳作業やメンテナンス作業、機械の異常への対応などが存在する。これらの作業時間は1頭用の搾乳ロボットで1日約2時間程度と見積もられる。特徴として、作業時間に縛られないため大幅な省力化につながる一方、真夜中に突発的な作業が発生するなど、予測できない作業が欠点としてあげられる。このため、点検等のスケジュールを立てて、家族全員で対応できる仕組みが求められる。

    さらに、搾乳ロボットの管理作業を効率よく行うためには、搾乳ロボットから得られたデータを活用することが重要である。省力化された時間を使ってこれらの情報を活用し、牛の健康管理に反映できるかどうかが成功のカギを握っている。

4.おわりに

規模拡大を目的として搾乳ロボットを導入する場合は、搾乳ロボットを一つの搾乳機械として捉え、ミルキングパーラーと比較し、その導入条件を満たすことができるかどうかを検討する必要がある。搾乳ロボットを成功させるためには、高泌乳牛に対応した快適なフリーストール牛舎の設計と栄養管理技術を基本として、牛の健康管理作業を徹底することがポイントとなる。

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