シンポジウム
2013年(平成25年)1月31日
国産飼料を最大限に活かした酪農の再構築-飼料自給率向上に向けて-
総合討議
パネラー(講演者)
安宅 一夫 氏酪農学園大学名誉教授
佐藤 健次 氏(独)農業・食品産業技術総合研究機構
石田 聡一 氏雪印種苗(株)
司会
松田 徹雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 部長
五十嵐 俊賢雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 課長
【総合討議の内容】(敬称省略)
司会
本日は飼料自給率向上に向けてというテーマで、それぞれ違った方向から3人の先生方からご講演をいただきました。今から意見交換を始めます。活発なご発言をよろしくお願いします。最初に事前にいただいた質問票から始めます。
石田先生へ3点の質問があります。1つ目は、北海道で事例がありましたらご紹介をお願いしますという質問です。
石田
私は府県で仕事をしているので北海道のことはそれほど詳しくはないですが、府県の副産物を北海道に持ってきて利用している事例があります。しょう油粕とビール粕などです。
また、北海道で発生するくずニンジンや澱粉粕が利用されています。先日、中標津に行きましたが、こういうものが利用されていることを見聞してきました。徐々に北海道でも副産物の利用が始まっていると感じています。
司会
府県から副産物を持ってくる理由は?
石田
遠距離でも大量に輸送すればコストが安くなるという経済的な面と、しょう油粕等のエコフィードのバイパス蛋白が高いということに注目していると考えています。
司会
エコフィードを利用した場合、生乳の風味について検査はしているのでしょうか。
石田
まさしくそこが重要です。府県で粕酪の風味問題があったと思います。私たちがエコフィードを使用した初期において、同様に風味問題が発生しました。そのため、当社の農場で使用する場合は必ず風味検査を実施し、問題がないことを確認しています。皆さんも使用される場合は、事前に官能検査をする、また出荷先の乳業メーカーに相談するなど慎重に進めるべきと考えます。
司会
次は、エコフィードという視点をもう一歩進めて、ブランド化するということも必要ではないかという質問です。
石田
府県ではワイン粕を使用した肉牛では、ワインビーフというブランド展開をしている例があります。北海道でもワインを作っているので同様な展開は可能ではないかと思います。皆様のアイデアで消費者にアピールするものを作り出すことは可能だと考えます。
司会
国産のエコフィードだけではなく、海外産の利用の可能性は如何でしょうか?
石田
実際にやられている例はあります。パイン粕のサイレージ化、あるいはリンゴ粕のペレット化など、低水分の形で利用されています。講演の冒頭にお話しましたように、エコフィードを乾燥したら配合飼料原料になるので、当然関係者は海外産のものについても考えています。
司会
佐藤先生への質問です。佐藤先生が示されたビジネスモデルの経済メリットについて、栄養的なものか、流通飼料としての利用かあるいは地場利用かという質問です。
佐藤
経済メリットということですが、ビジネスをやられている方は採算が取れる形で動いています。実際のところキログラム当たり30円を上回ると採算が取れなくなると聞いています。このことからすると30円以下で流通しているものと考えられます。
利点としては地域のスーパーや焼酎メーカーなど色々な人と連携して、地域全体が活性化することです。さらに栄養的にも、栄養バランスおよび飼料設計においても問題がないことが我々の研究チームで確認されています。生乳および乳製品の風味への影響についても問題がないことが確認されています。
流通面では、たとえば焼酎粕は非常に安く出てくるが、さらに輸送コストを下げるため、タンクローリーを購入して毎日何十トンも輸送するというシステムを築いています。普通にあるものを少し工夫して低コスト化を図っています。
栄養面、流通面でも努力して取り組まれています。そこに我々研究機関が連携し、農場で実験をさせてもらいながらデータを取り、コスト計算もしています。コスト計算はビジネスをやっている人がやはり一番シビアに計算するので、研究機関がすることよりすごいことをしています。それにあわせて流通においても、帰り便に何かを運んでくるという工夫もされています。
私も大量輸送について考えています。100tレベルと1,000tレベル、船輸送での1,000tレベルと2,000tレベルでは全く輸送コストが違います。スケールの大きさで全く異なってくるので、一言で経済的メリットを言えない難しさがあります。こういうことを理解していただいた上で私の話を聞いていただきたいと思っています。
計算上採算が合わないことを合うようにしていくことがビジネスの醍醐味とも言えるでしょう。そういうことをしてきた人たちがビジネスで成功した人たちです。そうした努力をした地域が、良くなってきています。こういうことがポイントだと思っています。
司会
取り組んでいるところで、イネを作る人だけで終わるのではなく、全体の中で経済的にお互いが認める利益を導き出してゆくということでしょうか。
佐藤
そこが一番のポイントですね。
地域で社長さんたちが話しあっているのを見ましたが、価格と品質については非常に厳しいやり取りをしています。1円~何十銭のシビアな現場です。したがって、個人とか一つの企業とかが努力するのでなくて、地域全体でそういう考えを持つことが重要です。その1つの例が鹿児島県の例です。大手スーパーの担当者がパイナップルを廃棄物とするよりは飼料(肉用牛用)にした方が価値あると考え、そしてそこで生産された牛肉をスーパーで売るというウィンウィンの関係が地域全体に出来上がっています。やはりそういう地域が生き残っていくのではないかとそう思います。
司会
安宅先生への質問です。ペレニアルライグラスとルーサン混播が今後道東において普及拡大していくのでしょうか。あとはチモシーとペレニアルライグラス草地についての留意点について教えて下さい。
栽培関係も含まれていますので、雪印種苗株式会社の高山場長に先にお聞きします。
高山
雪印種苗の高山です。
当たり前のことですが、生産者は乳が出る草を好みます。そして栽培が容易であることも必要です。ペレニアルライグラスは天北農試さんが開発した追播方法が簡単に定着します。そしてその方法で追播し、生乳生産量の増加を実感した生産者がいっぱい出てきました。それであれば採草地でも出来ないかということで一部で試みると、意外に簡単に定着できたという例があります。
ただ道東においては、今年は雪が多いですが、1~2月に30センチ以上の積雪が無いと、一冬で全部なくなります。ですから欲を出してペレニアルライグラス単播でやろうということは、絶対考えないでほしいと思っています。
追播で定着しますので、無くなったら追播と言う形で気軽にやったら良いのではないかと思っています。
実際に取り組まれているJA道東あさひ生産者の石田さんが出席されていますので、感想をお話ししていただければと思います。
石田
JA道東あさひの石田です。
ペレニアルライグラスには4~5年前から取り組んでいて、放牧地および採草地で苦労しながら取り組んでいます。去年は菌核病が出て苦労しましたが、今高山さんが言われた通り何かあれば気軽に追播して復活させています。自分がやっているのは採草地もそうですが、放牧地追播で5~6haぐるぐる繰り返し回って追播しています。思いのほか採食量が増えている状態です。
割り切って使えば寒冷地でもペレニアルライグラスもアルファルファもやっていけると、少し手ごたえを感じています。
安宅
私の同僚の小阪教授がアルファルファとイネ科との混播の事例を紹介していますが、アルファルファとペレニアルライグラスは非常に相性が良いということです。こういう組み合わせは酪農先進国にはありませんので日本型の混播組み合わせと言えます。それからチモシーの中にアルファルファを入れる組み合わせもあります。先ほどチモシー一辺倒でなく、混播を上手に行い、新しい混播の組み合わせを考えていくことができます。特にアルファルファについては、ニュージーランドおよびヨーロッパでやっているように、糖分の多いペレニアルライグラスと組み合わせてサイレージ用にするというような混播方法が今後期待できるのではないかと思っています。
司会
ペレニアルライグラスサイレージの道内のモデルがあるかという質問がありますが、私が天北勤務をしていた時に、採草利用でペレニアルライグラスをサイレージ利用していい成績を上げている人もいましたし、また、酪総研で取り組んでおります経営実証農家において大樹で追播を実施しております。2割くらい入れてサイレージの品質が上がっています。それによって乾物摂取量が上がるというデータを得ています。
司会
先程も話題になりましたが北海道の草地更新率が3パーセントを下回る状況にありますが、草地生産性を上げる為に、行政が諸対策をしておりますが、現場生産者がなぜ更新を受け入れないのか、それをやらない要因は何なのかという質問が来ています。
安宅
大変難しい質問です。お金も労力もかかる作業なので、最近は更新に対する補助がなかなかつかないということもあると思っています。何か更新を牽引してゆくものがあればよいのですが。
デンマークなどでは3~4年に1回積極的に更新をしております。そういう事例を見習い、農家自身もそういう自覚を持って積極的にいい草を作る気構えが必要かと思っています。
司会
積極的にデータ開示をしながら草地更新を進めているJA道東あさひの取組みについて、原井組合長からご紹介いただけますでしょうか。
原井
JA道東あさひの原井です。
飼料高騰下においてどう生き残るかという戦略の中、当農協では草地更新事業をメインに掲げています。基盤整備事業の予算が削減されている中で北海道全体の草地更新率は3%程度ですが、当農協は5~6%の更新率です。草地更新については、ルーサンの定着率が高いことから簡易更新主体(アッパーロータリーハロー)で行っていますが、ここ数年は農水省に対して簡易更新に対する助成措置の要請も行っています。
当農協が簡易更新を受託する場合、27万円/haですが、昨年から草地生産性向上対策費(10万円限度、1/3補助)を利用し、基本的には18万円/haの費用ですが、そのうち除草費用が2万円であるので実質16万円/haで簡易更新ができます。当農協全体の草地は49,000 haあり、1年で1,000ha更新していくことが目標です。
また、サブソイラー、追播も含めた簡易更新も進めないと現在の飼料高騰下では生き残れないと思っています。例えば、デンマーク、オランダはペレニアルライグラスの導入によりCP16~17%のサイレージを作っていますが、根室管内のサイレージ分析結果は平均でCP11%、TDN57~58%であり、この程度の栄養収量では生乳生産に寄与できません。かつては安い輸入穀物を使い生産性を上げてきましたが、今の時代は配合飼料価格安定制度があっても酪農経営対策にならないので、全国の酪農家が草地基盤からの栄養収量をいかに上げていくかが重要です。
当農協においても、1ha当たりの費用を抑え、いかに早く海外のようなCP、TDN収量を確保することを目標にしており、草地更新を一番の事業に位置づけています。
司会
飼料価格が上がっているのでトウモロコシの作付面積を増やしたいが、奨励品種ではないので補助対象にならないので、どこにアピールすればよいでしょうかという質問です。
行政に対する質問分野なので私の方で少し返答します。奨励品種になるためには奨励制度というシステムがあり、何年間かのデータをとり、適応性を確認する必要があるため、それ以外の品種に対しては補助を出せないという行政上の制度となっています。
司会
現在、かなりのハイペースで草地更新を進めている興部の岩田さんに、実際に感じている更新の成果についてご紹介いただけますでしょうか。
岩田
興部町の酪農家の岩田です。
現在、更新を始めて3年経過し、約23町を自力更新しています。そのうち安定した成分のサイレージはCP15%、TDN62~63%で、反収についても現物で以前の3トン程度から6トン以上収穫できるようになりました。食い込みも上がり、乳量も増加してその効果を実感しています。今後は草地の維持管理も重要ですが、一層の反収アップ、サイレージの品質向上を目指して更なる草地更新を進めていきたいと思っています。
司会
デーリィジャパンの伊藤さんは、全国を回ってさまざまな経営を見られていると思いますが、その中で参考になる取組みや農家経営の事例をご紹介いただけますでしょうか。
伊藤
酪農専業地帯と畑作地帯での取組みの温度差を感じています。
酪農専業地帯では、JAが先導役となって草地更新を進めていることが特徴的で、またTMRセンターやコントラクター部門を持っている地域で、植生改善や自給飼料増産に積極的に取り組んでいる事例があります。また、十勝管内のある町では、牧草種子の購入に対して町が35%、農協が35%の計70%を助成する事業があり、補助のあるうちに草地更新を進めていこうという取組みもあります。
都府県では、効果的な取組みを行う際に、どこが先導役となってやるかが課題であり、士気の高い酪農家、農協、さらには民間にもその期待がかかっていることを感じています。
司会
会場の方でこの点についてお聞きしたい方いらっしゃいますでしょうか?
川村
中標津の川村です。私たちの町は2万5千人弱の町です。東洋一の雪印メグミルクのなかしべつ工場があり非常に活気があります。今、先生方からも鹿児島では酪農、農業の関係で非常に町に活気が出てすごく良くなったということでした。私たちの町もそういう面では、例えば農業関係は地域のそれぞれの企業との連携をとりながら草地改良や堆肥処理などの色々な分野を企業に任せてそれぞれ地元にお金が下りるような形でやっています。そのような中、雪印メグミルクも地元の生乳をまず使い、それぞれ物の流れも町の流れもかなり協力してもらっています。
私たちの町ではTMRセンターが中標津農協で3つ、計根別農協に1つあります。先ほどのTMRセンターの話では府県は20~30円/kgでという話でしたが、我々は粕酪も何もないので倍ぐらいのお金が掛かります。穀物は全て購入し、自分たちで作った粗飼料でTMRを作っていますから、実際に出来上がった物を農家に配る時にはかなりの値段になるわけです。
私も農協理事の時に、熊本なども見学に行っているのですが、それぞれ地元の色々な粕を利用して、素晴らしい餌を食べさせていました。そういうところを見て非常に羨ましいと感じました。そのような流れの中で、先ほど中標津のニンジンの例がありましたが、そのような例は中標津でも一部で中標津全体としては使うことをしていません。府県での酪農家の粕酪は色々な粕があり、自分のTMRに自給飼料、粗飼料なども混ぜて作れることはかなり羨ましく思いました。
私たちの町も酪農の町ですので、毎年かなりの草地改良や色々なことを行っています。そのなかで良い粗飼料を作り、自分たちの自給飼料でなるべく安い飼料を作り搾乳をしましょうということで、私たちの後継者もそのような気持ちでがんばっています。そういうことも含めて頭に入れておいて貰いたいと思います。
また、補助事業も色々な分野であり、府県での補助事業は北海道の酪農家よりも多いと聞いています。そういうことも含めて厳しい北海道の実態を把握しながら、これから色々なご指導をお願いしたいと思います。
佐藤
ビジネスを考えた時に田舎は田舎なりの生き方があるのではないかと思います。先程紹介した例では、かなりの田舎の公共牧場を買ってくれないか等と色々な話があります。例えば、そこで肥育素牛を放牧育成し出荷するというような部門を入れるというような多角的な一貫経営を行っています。現状では駄目な部門について、そこを復活させるというビジネスセンスです。このように現状はマイナスなところをプラスに持っていくということがビジネスの裁量だと思うのです。実際にそういうことをやっている方もいるということです。
また、中国の方が田舎にいって土地を買い占めて水源涵養地帯を中国の資本が買い占めているとかそういう話を聞きますが、九州ではそういう話が行く前にビジネスが出来そうな方(日本人)に牧場を買ってくれないかというように動いています。プラス志向で色々考えていければ良いかなと思います。
粕が無いところは別にその地域の粕を必要なものと考えなくてもと思います。極端な話、東京都内から先ほど石田先生が話したような船で必要な地域に持って行き、北海道全域に供給する核(地域)となるようなことや、出てきた物(粕類の飼料)は逆に内地の方にちょっと高めにして売ることも考えられます。それが国全体の自給率向上に繋がるということも考えられるのではないかと思います。
昔の北前船のように日本人が賢かった時代をちょっと思い浮かべていただきたい。私は北海道或いは日本海を通って、鹿児島まで飼料を運んで南から卵とか肉とかそういうものが北上し、途中の日本海側の海産物も含め流通出来るようにするというようなことを考えています。そのために、まずは大量に作るという発想です。
先程強調しなかったのですが北海道の酪農と九州の肉用牛部門が一緒になることによって共通の飼料部門で飼料を大量に作り、それを低コストで生産しながら使いあっていく。これは地域一つだけではとても適わないと思います。ましてや海外との流通では負けると思いますので、そこを海外レートに左右されないような日本だけのシステムを考えて自国で決定できる価格で大量に作りながら大量生産しながら供給していく。そういう時に酪農部門と肉用部門がどう連携するかがポイントとなって来ます。例えば、そのような時に共通飼料を大量に利用するというところを考えてビジネスやってみてはどうでしょうか。逆提案になりましたが、今回は柔軟に物を考えてはどうかという発言に留めたいと思います。実際、そういうことを動かそうとしています。
司会
予定の終了時間になりました。この辺で意見交換の場を終了させていただきます。ご講演をいただきました先生方、大変有難うございました。