シンポジウム
2013年(平成25年)1月31日
国産飼料を最大限に活かした酪農の再構築-飼料自給率向上に向けて-
飼料自給率向上へ向けての副産物利用
雪印種苗(株) 石田 聡一 氏
はじめに
国内の円安が進み、エネルギーや穀物価格が上昇した場合に自給粗飼料の生産量アップと伴に、低利用、未利用の食品・農産副産物(「エコフィード」)を使用していくことは、酪農経営を安定させる方策の一つとなる。そこで、副産物を牛に有用な、経営に貢献させる飼料化の技術について紹介する。
1.国内の低・未利用のエコフィードは?
エコフィードの中で先ずビール粕は飼料価値が認められ、またビール生産の減少もあり、ほとんどが飼料として有効に活用されている。さらに豆腐粕、醤油粕、焼酎粕もメガファームやTMRセンターでの利用が高まり、飼料化が進んでいる。しかし、これまで一般生産者の飼料として利用実績が少ない、緑茶粕を代表とする茶系飲料残さの飼料化は進んでいない。また弊社では平成16年より飼料原料として使っているキノコ廃菌床もほとんどが堆肥原料に廻っている。
北海道においては自給粗飼料が豊富ということからか、府県ではエコフィードとして利用されているものも堆肥に利用されていることが多い。またカット野菜、冷凍食品工場、選果場から出る野菜副産物もほとんどが堆肥の原料になっている。飼料に廻らない理由はあるが、工夫すれば飼料になる余地はある。
2.低・未利用副産物をエコフィードにするには?
低利用・未利用のエコフィードを流通させるには、食品・農産加工メーカーが副産物を飼料として販売したいという意識に掛っている。技術的には保存性を確立し、飼料成分や嗜好性を把握する他、安全性や経済性の確認も必要である。
保存性の確立
水分の多い、変敗・腐敗しやすい副産物をエコフィードとするには、まず保存性を確立する必要がある。堆肥材料として出す衛生管理レベルでは問題になることが多い。ビール粕など古くから飼料として販売している先進事例を学びたい。豆腐粕は代表的なエコフィードであるが、夏季開放した状態では、急速に変敗が進むことが知られている。しかし、豆腐生産現場において排出直後に酵素と乳酸菌を添加し密封すれば、排出時は食品レベルの衛生状態であることから、良好な乳酸発酵サイレージになる。乾燥状態にあるエコフィードを除いて、副産物を保存するには先ず速やかに密封したい。酸素が入らない限りカビは発生しない。しかし、高水分の場合には嫌気状態でも牛の飼料としては好ましくない酪酸菌が増えて酪酸発酵が起きることがある。それを防ぐには有機酸添加によるpHの低下や酵素の添加による糖含量を増加させ乳酸発酵を促進させる方法がある。
産出現場の確認
エコフィードを産出する食品工場、生産現場の搬出ライン、ホッパー等の施設、装備が衛生的に問題ないか確認する。
分析による安全性の確認
微生物(大腸菌群数、カビ菌数等)、重金属、農薬汚染がないか分析データによる確認をする。
飼料成分の調査
利用するエコフィードは実際の飼料分析値を確認する。
嗜好性の調査
飼料成分的に価値が高くても、家畜の嗜好性が悪ければエコフィード単品での給与は難しくなり、またTMRへの混合割合を配慮する必要がある。
エコフィード乾物当たりの価格の確認
エコフィードを利用するに当たり、乾物当たりの価格を一般流通飼料に比較した中で、利用するかを決定する必要がある。一般にエコフィードは水分があり、利用するには密封を保つなど流通粗飼料より手間がかかる。乾物当たりの価格だけでなく、水分が有る故の手間やロスを考慮しても割安感があって始めて経済的と言える。
エコフィードの飼料成分の変動、食品工場での生産量の把握
利用開始時に飼料成分を分析しても、品質管理上定期的な飼料分析は必要になってくる。もし成分値の変動が大きければ、給与量を減らし一日の給与飼料の飼料成分の変動を少なくしなければならい場合もある。また、食品工場等エコフィードの搬出先は、エコフィードを作ることが目的でないため、年間、月別の発生量は一定でないことが多く、またその製品の消費動向によっては最悪の場合利用できなくなる場合もあり、搬出先の生産量の情報は入手しておきたい。
3.「キノコ廃菌床」、「緑茶粕」の飼料利用
キノコ生産センター(工場)から出る廃菌床の中でコーンコブを主体としたものでは、培地が配合飼料に使われる原料であり、TDNは乾物50%程度である。飼料として十分使える。
緑茶粕も乾物当たり蛋白質が20%以上あり、繊維含量もヘイキューブ並みにある。TDNは70%程度である。嗜好性はよくないためTMRなど他の飼料と混合して給与する。
4.ワラ類と高水分エコフィードによるベストミックス飼料の製造
一般に稲ワラや麦ワラは乳牛の飼料としては、繊維含量が高く、粗飼料効果は高いが嗜好性、繊維の消化性が低いということで利用は少ない。しかし、豆腐粕、ジュース粕、醤油粕など繊維の消化性の良いエコフィードと混合し、乳酸発酵させれば、ルーサン等の牧草並みの栄養価や粗飼料効果を示す。
食品製造現場から出る高水分のエコフィードと耕種生産現場から出る稲ワラや麦ワラを一か所に集め、そこで牛の基礎飼料となる「ベストミックス発酵飼料」を製造することはできないであろうか?
食品製造現場においては、高水分のエコフィードを輸送することは、乾物当たりの価格を高めることになるため、脱水処理技術の導入も必要である。また耕種生産現場も米や麦を商品として生産するのと同様、ワラも飼料として販売する収穫方式を作っていく必要がある。
5.飼料設計(TMR製造)における「原料主義」から「成分主義」への変更
前述の農産副産物など季節的に発生するものや年間の産出量が変動するエコフィードを利用するには、TMRの栄養成分は変えずに原料の種類や配合量は変更できる製造体制が必要となる。TMR原料の飼料成分を実際に分析し、成分の把握や変動を押さえ、TMRの原料や配合量を変えても、実際の乳牛の栄養充足、乳生産、乳成分、受胎に影響しない実践的な飼料設計ができなければならない。この製造方式ができるTMRセンターはTMR価格を低下できる可能性は高い。
6.多種類の副産物利用の「エコフィード発酵飼料センター」の設置
多種類の副産物を利用する方式として前述のエコフィード主体の「エコフィード発酵飼料/ベストミックス発酵飼料」を製造する「エコフィード発酵飼料センター」の設置がある。各地域にこのようなセンターが設置できれば、その地域で産出する副産物の飼料化が一歩進むと判断される。また多数の副産物を利用し、販売価格を低く抑えるためには、利用者には製造する本発酵飼料はできるだけ一本化し、製造効率をあげる方式を理解してもらうことが大事である。
おわりに
牛は繊維を栄養にできる家畜であり、前述の安全性や嗜好性に問題なければ鶏や豚では栄養価が低い繊維の多い食品・農産副産物も「エコフィード」として利用できる。
牛は牧草を食べる家畜と見るか、それとも広く繊維を食べる家畜と見るかで、飼料の選択の幅や飼料費は大きく変わる。牛の栄養学や飼料学の進展により、牛の飼料は牧草・飼料作物、穀類などこれまで使われていた飼料の他に前述の多くのエコフィードが高泌乳牛にも給与できる飼料設計が可能になっている。
今まで使っていない飼料を牛に給与することはリスクであり、勇気のいることである。しかしこれらの飼料を使うことで飼料費が下がり、経営の改善に繋がる可能性は高い。