シンポジウム
2013年(平成25年)1月31日
国産飼料を最大限に活かした酪農の再構築-飼料自給率向上に向けて-
耕畜連携による都府県の飼料自給率の向上
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 佐藤 健次 氏
はじめに
近年、我が国の大畜産の飼料自給率は低下しています。平成22年3月閣議決定(新たな食料・農業・農村基本計画)では、粗飼料自給率78%を平成32年度まで100%、飼料自給率25%を同様に38%まで引き上げる目標を設定しています。耕畜連携や食品残さの利用も含めて、飼料自給率を高くしようとしています。
この目標達成には、家畜生産者一人一人が、畜産の本来の姿である土-草-家畜の流れを再考し、飼料作物(飼料イネを含む)や食品残さ等の地域飼料資源を活用するビジネスの確立によって可能であると考えます。
最近、都府県では、飼料イネをサイレージ調製した稲発酵粗飼料(WCS)が肉用牛や乳用に給与される例がみられます。この事例は、耕種部門と家畜部門の耕畜連携によって築き上げられていますが、日本型の畜産経営にも新しい視点を提供していると考えられます。
図1は暖地における飼料イネ等の発酵TMR生産技術の開発による地域利用システムの構築の例であり、ビジネスとして動き始めている地域畜産システムです。
この度の講演では、1)多様な地域資源と活用システム、2)稲発酵粗飼料等を活用する耕畜連携ビジネス、3)地域で特徴的な食品残さの利用(稲発酵粗飼料等と活用するため)、4)食品残さ(焼酎粕濃縮液等)などを活用する利用システム、および5)今後のビジネス展開、について事例を紹介しながら情報提供致します。
1.多様な地域資源と活用システム
都府県では、飼料作物などの自給飼料は水田および畑地で生産され、多様な土地利用型資源があります。図2のように、多様な地域資源の活用システムが重要となります。特に、ビジネス的視点では大量に低コストで生産することが重要と考えます。共通の地域資源を酪農に限定せず、肉用牛部門を取り込みながら大量生産・供給体制がポイントを考えます。この視点は北海道の酪農部門と九州地域の肉用牛部門にも適用可能であり、我が国全体で飼料自給率を向上しようとする場合のポイントといえます。
2.稲発酵粗飼料等を活用する耕畜連携ビジネス
図3には、耕畜連携ビジネスでの基本的な構成を示しています。水管理を中心に定住生活をしているわが国に古くから存在するムラ(村)システムに該当すると考えます。飼料イネ作付推進協議会(村長)が耕(葉たばこ生産農家・稲作農家)と畜(酪農家・肉用牛繁殖農家)を行政(町・JA・振興局・普及センター)と共に連携し、地域を再構築しようとした例です。立派な現代版指導者が存在し、耕畜連携ビジネスを形成したと思っております。
3.地域で特徴的な食品残さの利用(稲発酵粗飼料等を活用するため)
最近、食の安全・安心が確保される農業の確立が重要となっています。特に、稲発酵粗飼料を利用する場合、食用稲とも関連して農薬利用では慎重な対応が求められています。図4には、コンプライアンスの関わる生産加工供給段階と飼料自給率向上の関係を示しています。ここには食品残さを利用し、安全・安心な畜産物(動物性タンパク質)を供給する時の生産加工物流の段階と、コンプライアンス(法令遵守)、自給率向上の視点を記述しています。我が国における地域で、安全・安心な畜産物生産の責任を果たすことを忘れないことが肝要であり、この基本的な姿勢のもとで、地域で特徴的な食品残さの利用が可能であります。法的に違法な生産物は、消費されずにゴミあるいは廃棄物となります。消費者の信頼を得ながら堅実な畜産ビジネスを推進することが重要であります。
4.食品残さ(焼酎粕濃縮液等)などを活用する利用システム
図1~4の情報を包括する利用システムが重要となります。九州地域では、鹿児島県南さつま市、熊本県八代市などで具体的なシステムが稼働しています。今後、新しい耕畜連携システム等の構想が実現され、飼料自給率(食品残さを含む)や食料自給率の向上に寄与しながら健全な地域作りにも貢献できると考えています。
5.今後のビジネス展開
自給飼料・食品残さ等を活用し、飼料自給率を向上するためには、以下の項目が中心になると考えます。
母牛への給与
粗飼料型和牛繁殖牛TMR 給与技術
濃厚飼料型泌乳牛用TMR の給与技術子牛への給与
高栄養・粗飼料型子牛用TMR 給/与技術
肥育牛への給与
高栄養型肥育牛用TMR 給与技術
おわりに
地域で生産される飼料作物(飼料用イネ含む)等の自給飼料および地域で生産される食品産業副産物(食品残さ等)を積極的に活用し、地域の所得を確保できる新システムの構築を図るため、本講演が少しでもお役に立てば幸いです。更に、東日本大震災の復興等に寄与できるビジネス情報となることを切望しております。