シンポジウム

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2013年(平成25年)1月31日

国産飼料を最大限に活かした酪農の再構築-飼料自給率向上に向けて-

飼料作物の増強による北海道酪農のルネサンス-チャンスとチャレンジ-

酪農学園大学名誉教授 安宅 一夫 氏

日本の酪農は、関係者の努力によって、多くの困難を克服し、短期間に飛躍的に発展してきた。しかし、生乳生産を支える国産飼料の自給率は34%(北海道50%、都府県16%)と極めて脆弱である。そこで、北海道においては飼料作物の生産強化と品質改善による飼料自給率向上と酪農の活性化のための技術を提案したい。

輸入穀物飼料依存からの脱却

濃厚飼料(穀物)はほとんどが外国から輸入されており、その価格高騰は繰り返し、最近は高止まりであったが、さらに著しく高騰している。このため、ようやく輸入穀物から脱却し、国産自給飼料の生産を強化する機運が高まっている。しかし、濃厚飼料の給与量を単純に節減あるいは減少させては乳量が著しく減少し、繁殖成績も低下するだろう。まずは濃厚飼料の給与量を吟味し、無駄な給与をやめるべきである。また輸入穀物の代替としてトウモロコシ雌穂サイレージ(イアコーンサイレージ)の開発と普及が始まっている。一方、穀物価格の高騰はわが国ばかりでなく、世界の酪農や畜産農家に大きな打撃を与えている。トウモロコシの本場アメリカでも、トウモロコシの給与量を節減して、乳生産と乳牛の健康を維持する飼料プログラムの開発が研究されている。また、デンマークやオランダでは、牧草の超早刈りとトウモロコシサイレージの給与により、穀物給与量を節減している。さらにニュージーランドでは例外を除いてほとんど牧草だけで牛乳を生産している。穀物給与量を節減するための方途は、粗飼料の量と品質の改善とイアコーンサイレージなどの国産穀物の生産や副産物の利用拡大である。

進んだ乳牛の改良と遅れた粗飼料の生産・利用

穀物あるいは濃厚飼料給与量を節減するためには、粗飼料の生産量とその品質を改善する必要がある。

近年におけるわが国酪農の飛躍的発展には、乳牛改良と飼養技術の向上が大きく貢献した。乳牛検定事業により乳牛1頭当たりの乳量は、1975年の4,500㎏から9,000㎏へと2倍に増加した。この間、濃厚飼料の給与量は1,350㎏から3,340㎏へと同じく2倍以上に増加した。

一方、この間草地面積は減少し、収量も増加していない。また栄養価の向上も見られない。つまり、乳量増加に最も貢献したのは濃厚飼料給与量であり、粗飼料の改善が遅れてしまったのである。

新しい飼料作物のベストミックス

粗飼料の生産は、労働力の不足から、平成19年まで減少を続けたが、配合飼料価格の高騰により、その後は拡大傾向にある。しかし、単位面積当たりの収量は、減少あるいは横ばいで推移している。その原因は、草地更新の遅れと植生の悪化である。特に近年、北海道では栽培の容易さからチモシー一辺倒になったことから、リードカナリーグラスやシバムギがはびこり、収量や栄養価の低下がみられる。これを憂慮した先進的な酪農家と種子会社が簡易草地更新と優良牧草の導入に取り組んでいる。特に別海町北矢ケレス友の会の取り組みは圧巻である。

 世界の酪農先進地における粗飼料のベストミックスは、アメリカにおけるアルファルファとトウモロコシ、ヨーロッパやニュージーランドにみられるペレニアルライグラスとシロクローバである。アルファルファは牧草の女王としてその価値はよく知られている。ペレニアルライグラスは嗜好性が高く、放牧草として最も優れた草であるが、糖分含量が高いため、サイレージにも適した草である。飼料学の専門である筆者はこれらの草をかねてから推奨してきたが、わが国草地酪農の本場である道東地方では、トウモロコシはもとよりアルファルファおよびペレニアルライグラスの栽培は不適とされていた。しかし、これまで不適地とされたところで従来適地とされた草地を凌ぐ見事な草地ができつつある。

 北海道の開拓当時、コメ作は不適とされたが、現在北海道はコメの最大産地であり、美味しいコメができるようになった。北海道酪農はチモシー一辺倒から脱却し、栄養価が高く、収量が多い飼料作物への転換が必要である。

次世代放牧技術で高泌乳牛を健康に飼う

最後に筆者の愛弟子の一人、レークヒル牧場塩野谷孝二氏の経営を紹介する。この経営は、平成24年度農林水産祭内閣総理大臣賞を受賞し、内容は、ペレニアルライグラスとシロクローバ主体の放牧地に51頭の経産牛を昼夜200日間放牧し、トウモロコシサイレージと牧草サイレージを併給し、濃厚飼料の給与量は年間2,500㎏であり、乳量は9,759㎏で分娩間隔387日である。この数年濃厚飼料給与量は減少しているが、逆に乳量は増加している。今後の目標は、濃厚飼料給与量を2,000㎏まで減らし、乳量を10,000㎏に増やし、1年1産を実現することである。

乳牛の生産と健康、そして酪農経営の生命線は飼料である。穀物のひっ迫とそれによる高騰を隠された祝福ととらえ、北海道では飼料作物の増強に努め、強く美しい、魅力ある輝く酪農のルネサンスを期待する。

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