シンポジウム
2012年(平成24年)2月3日
牛乳・乳製品の機能性・おいしさを科学する
第3講演『牛乳乳製品に求めるもの』
札幌消費者協会理事 松井 英美子 氏
はじめに
今日は、阿久澤先生のお話で「おいしい」というお話がありました。昨年、道内の酪農現場でチーズを頂く機会に恵まれましたので先にご紹介します。一つ目の酪農家は年中、外で牛を飼い、草は有機の牧草のみで全て自給飼料であり、あとは国産のパルプを少々使うというところでした。飼育頭数は搾乳牛40頭余りで、乳量は少なく5000kgです。普通は6000~9000kgですが、ここは限りなく無理をさせないということで拘っています。牛乳はノンホモ、低温殺菌で瓶にて販売しています。全てがそう出来るわけではなく一部はメーカーに出荷しています。二つ目は生産者十数戸が販売も一丸になり取り組んでいるところです。飼料には大変苦心され、ポストハーベストフリーのものを使い、将来的に飼料自給率を高めるために飼料米を検討しています。消費者との繋がりに大変熱心に取り組まれ、保育園などに積極的に出荷しています。
親子の牧場体験などにも熱心に取り組まれている二つの牧場ですが、酪農経営の共通点は、広く環境を視野に入れていることです。特に一つ目は、自分のところへ外から物を入れず、自分のところから外に出さないという循環型を目指しています。また、牛の健康が第一。これは酪農家にとっては当然でしょうが大変拘っています。それから有機飼料やポストハーベストフリーなど飼料に拘っているということと、生産者の飼育への並々ならぬポリシーや誇りを感じました。新鮮な牛乳でとても美味しかったです。ただ、私は経験できましたが、一般の消費者にはとても叶わないことです。では一般の消費者は何を基準にして牛乳を選ぶのでしょうか。
1.消費者が牛乳・乳飲料を選ぶ動機は?Part1
やはり表示で選ぶということになると思います。牛乳の表示は、食品表示の見本とも言われています。勿論、種類・商品名・乳脂肪等、全て食品衛生法・乳等省令・JAS法・公正競争規約等で決められていますが、ここで一番注目されるのは、製造所の所在・製造者です。加工食品は、この二つが無くても構いません。普通は販売者が代表するものであればいいですが、牛乳に関しては、誰が何処の場所で作ったかを必ず表示しなければならないと決められています。私たち消費者にとって、誰が何処の場所で作ったかということは、とても表示して欲しい項目ですが、牛乳は完全に表示されています。では、ここの中からどんな基準で消費者が選ぶのか。脂肪の量か、殺菌方法か、商品名か、或いは今日お話がありました機能性で選ぶのか、というところがこれからのお話です。
ここに沢山の牛乳がありますが、まだまだこの他にも多様に販売されています。これを三つのグループに分けて考えてみました。 まず一つのグループは、牛乳の脂肪量を特徴としているものとして分けました。勿論、乳脂肪3.6と、きちっと銘打った物もあれば、今日の阿久沢先生のお話の中に、おいしさの決め手に脂肪の3.5プラス0.3位がおいしいかな、ということがありましたが、3.6、3.7、3.8という牛乳はよく販売されています。次の低脂肪牛乳は、栄養素がその牛乳で足りていて、30%位カロリーが少ないことを製品のポイントとしています。次のメグミルクですが、発売された時には赤いパッケージがとても印象的でパッケージを見ると赤のヒミツという表示がありました。この赤が賞味期限を延ばすということを、どこまで消費者が分かっているかは分からないですが、多分に赤が好みで選ぶということもあると思います。
次のグループは商品名です。おいしい牛乳が発売された時に、おいしいというのは何だろうと思いましたが、おいしいということで選ぶ消費者もいると思います。次は、美瑛とか地名が書いてあります。それとこの絵です。絵のところがとても印象的で、いかにも牛乳をイメージしたものと美瑛という知名度で選ぶ、それと地域限定であるということで選ぶというのもあると思います。根釧牛乳も同様で、地名で選ぶというのもあると思います。
あと一つはこの上の部分で、製法とか機能性で選ぶ。これは乳飲料ですが、これ一つでカルシウムも補強され、足りないと言われる鉄分も補強され、おまけに葉酸も入り健康に気を使う人が選ぶ商品という気がします。また、オーガニック牛乳は日本ではまだ一つしかないと思いますが、オーガニックに拘っている人にとっては、これは選ぶ一つの牛乳と思います。こちらは、ほんとの牛乳という商品で、何がほんとなのかよく分からないですが、ノンホモであること、低温殺菌であること、風味など好きな方が選ぶと思います。
好みにより牛乳を選びますが、最後は価格になると思います。それを証明するデータがあります。平成23年の料理教室に参加された263名のアンケートをとったもので複数回答です。その結果、牛乳が一番多く、次が低脂肪、そして成分調整、加工乳となっていますが、やはり圧倒的に普通の牛乳が飲まれているということは、ある程度価格的なことがあると思います
2.消費者が牛乳・乳飲料を選ぶ動機は?Part2
消費者が牛乳・乳飲料を選ぶ動機ですが、先ほどのお話にもありましたが、美味しいから選ぶのか、健康に良いから選ぶのか、また両方というところもあるでしょう。例えば低脂肪を選ぶ方は少しでもカロリーが少なく栄養素が足りているものということで選ぶ。ヨーグルトは体に良さそうとか、お腹に良いからとか、またヨーグルトは美味しいからということもあります。そこで一つ調査したのを見て頂きたいですが、ヨーグルトは特保が取られています。この特保に関してもアンケート調査を協会で行いました。
特定保健用食品の認知度ということで、平成23年度にアンケートだけに協力して頂ける専門の調査員の方に来ていただきました。ある程度勉強している方たち102人の数字ですが、その中で特保について内容まで概ね知っている人は、全体の四分の一位。名前だけ知っているという人は65%、その他知らないなど。実際にヨーグルトは、私たちの生活の中で非常にたくさん食べられていますが、内容迄詳しく知っている人は、意外と特定保健用のマークが付いているにも関わらず知らない人が多いのが現実です。機能性食品などを発売する時に、その内容まで分かって貰えるのは難しいことと思われます。詳しく知らず何かに良いから、と消費に走る消費者の姿がここから見えます。
3.日本人の食事摂取基準について
健康に何が良いと思い牛乳乳製品を食べているかというところですが、消費者にとって一番身近で分かりやすいのがカルシウムです。ここからは、カルシウムを中心にお話をさせていただきます。昔からカルシウムは、足りたことがありません。日本人の食事摂取基準ですが、私たちがお話をする時に何を基準にしてするかという時にどうしてもこの食事摂取基準を踏まえていないとお話が出来ないわけです。食事摂取基準は、国民の健康の維持増進等を目的とし、一日当たりのエネルギーを各栄養素等の摂取量の基準を示したもので厚労省から発表され五年毎の見直しになっています。今日はカルシウムに特化してお話をさせて頂きます。
2005年版以前は、単純に栄養所要量という形でした。5年毎の見直しですので2010年版を見ると、今日は男性が多いので男性のところを中心にお話させて頂きます。ここに目安量というものがあります。目安量は、ある年齢、性の階級に属する人が、良好な栄養状態を維持するのに十分な量というところです。例えば一番大事な8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、14歳、15歳、17歳、この辺りが非常に高くなっています。この年代は、注意して沢山摂りましょうという高い数値になっています。あまりにも現実から離れていると思いますが、当面目標量というのを次に設けています。この目標量というものは現在の日本人が、当面の目標とする量になっています。
2009年度の国民健康栄養調査をみると、カルシウムを食品だけで摂った場合、7歳から14歳は662mg、学校給食が終わった15歳から19歳534mg、20歳から29歳は456mg、30代・40代と450mg位で推移しています。50歳位になるとようやく骨のことが気になりだすのか550mg、60代・70代では600mg近くとなっていますが足りていません。
2010年版の食事摂取基準です。名称も変わり推定平均必要量となっています。これは、ある母集団に属する50%の人が、必要を満たすとされる一日の摂取量です。数値が前回に比べ現実的で低くなっています。次に推奨量です。これは同じ集団の殆どの人において、一日の必要量を満たすものというもので、出来ればこの数字を目指して頑張って欲しいという数字であり摂取基準になっています。
見直しのポイントは、まずカルシウム。2005年版の目安量、目標量から少しダウンして推奨量を目指すことになりました。先ほどの98%の人が摂ったらよい、という量を目指して栄養指導する食事摂取基準となっています。
他に増やすべき栄養素として牛乳に無い食物繊維、n-3系脂肪酸。脂肪酸ということは青魚を食べましょう、EPA・DHAを摂りましょうということです。当然、カルシウムは増やしましょう。カリウムは野菜や海草などから摂り、増やすべき栄養素として気をつけましょう。減らすべき栄養素はコレステロールです。またナトリウムは出来れば6g位にして欲しいですが、7gから7.5g位まではよいでしょう、といった変更もありました。では私たちは実際、どのようにカルシウムを普段の生活に摂り入れたらよいかということです。
4.日常生活で牛乳・乳製品をいかに摂取するか
私どもの料理講座などで使われているバランスガイドです。これは古いのでちょっと違っています。例えば、主食の部分は5から7になっていますが、最新版は4から8と少し幅を持たせ、より低い人と多い人のバランスを持たせています。少々変わっていますが、いつも講座で申し上げることは、牛乳は飲み物でなく食べ物であるということです。主菜の部分は、小さい子供の場合はチーズなど沢山摂りますが、高齢者はお肉も食べない人も多い為、この部分にチーズを入れる様に栄養指導をしています。普段の料理の中では、お米と乳製品は凄く合います。またビタミンDがたくさんある鮭と乳製品で更にカルシウムを強化したり、和食材の味噌・醤油と豊富なビタミンKを含む納豆などと一緒に合わせた料理法を薦めています。
更に牛乳乳製品は素晴らしい調味料にもなるので、レシピを紹介させて頂きます。「ゆめぴりか」、北海道で98%作られている「ゆりね」、「塩鮭・いくら」を使い、ご飯にバターを入れコクを出しました。しかし、なんとなくまだちょっと物足りないのでゴーダチーズを入れました。ゴーダチーズのコクがでて、ようやくレシピが完成しました。3月11日にNHK放送センター前で提供します。
おわりに
今回はカルシウムについてお話をさせて頂きました。ここ何年か、食材の機能性を表に出して消費者にアピールする時代になりましたが、機能性物質については如何に消費者に分かりやすく伝えていくかということ、そして消費者が正しい情報をどうやって受け止めているかということを分かっていることがポイントになると思います。私たちは健康の為に、色々な食べ物を摂りますが、いつも話しているのは、「色々な物をあれこれいい加減に食べること。それが一番体に良いのであって、その中の一つに牛乳乳製品は欠かせない食品である」ということです。必ず「一日に一回は摂る」という当たり前のことを、少しでも多くの人に伝わる様に消費者団体としても頑張っていきたいと思います。