シンポジウム

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2009年(平成21年)1月30日

自給飼料の最大活用を実現する!!-乳牛改良の方向性と飼料生産の優良事例-

総合討議

パネラー(講演者)

田鎖 直澄 氏北海道農業研究センター主任研究員

福本 弘一 氏別海町北矢ケレスの会

山本 利浩 氏広尾町サンタドリームサプライ

高山 光男 氏雪印種苗(株)北海道研究農場場長

座長

西根 俊政雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 部長

山下 太郎雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 顧問

【総合討議の内容】(敬称省略)

西根

まずはそれぞれの先生におかれまして、講演の中で言い足りなかったこと、補足したいことなどあるかと思いますが、その部分について一言ずついただきたいと思います。

田鎖

今後の酪農経営を考えてみますと、今までの何も考えない高能力化がよいのか?それともしっかりと協調をとった高能力がよいのか?そこをどう選択するかで大きく変わってくるかと思います。その中で泌乳持続性というものを紹介させていただきました。

福本

講演の中でも話しましたが、アルファルファの場合、次の年にどれだけ株を残しているかが一番重要であると思います。その後普通の混播牧草と同じような管理をすれば永続していくのではないかと思っています。

山本

特に言い足りなかったことはありません。

高山

福本さんの栽培管理、特にスラリーを上手く利用して足りないカルシウム、リン酸をきちんと補完しているという点が非常に参考になりました。それによってアルファルファが定着しているのだと思います。やみくもにアルファルファを入れればどうにかなるような話ではなく、アルファルファの栽培歴がない圃場は、ぜひ1haに一握りでよいのでアルファルファをつくり、根粒菌を定着させれば次のアルファルファの栽培がしやすくなります。

もう1つ、運賃は上がっているが唯一値上がりしていない、国産のカルシウムが山にたくさんあり、あとビート工場にもライムケーキがあります。今まで糞尿をやり続け、リン酸がかなりある畑があると思いますが、そのリン酸が枯渇しないうちにスラリーとカルシウムを使っていただき、そこに私達のつくった品種を入れてもらえればと考えています。

西根

次に皆さんからいただいた質問表についてお答えいただきたいと思います。まず、田鎖先生に対する質問は2問ですが、1つ目は「高持続性型遺伝形質の具体的な展開方法は?その方法論をお答えいただきたい」という質問、もう1つは「この遺伝的形質は牧場とタイアップして試験するという話でしたが、個体改良という点でブリーディング会社とのタイアップは考えていないのか?」という質問です。

田鎖

具体的にはこれから農家が自分の経営の雌牛について、この牛にはこの種雄牛を種付けするのが妥当であるという簡単なツールを構築、提供していきたいと考えています。ただ、持続性の指標が出ているだけでは使い勝手が悪いので、現在プロトタイプ的なものはありますが、それを上手く改良して皆さんに使っていただけるよう構築していきたいと考えています。

そうした中で、飼料の利用性などですが、間違いなく配合飼料の節減や飼い易い牛になることにつながると思います。ただその部分の実証データが薄いので、そこの部分をきちんと実証していきたいと考えています。もう少しすると具体的にお示しできると思いますのでご期待いただきたいと思います。

もう1点、そういった研究の応用技術展開を図る中で、ブリーディング会社と連携をとれないかという話ですが、まだ具体的には突き詰めて話したことがない内容です。講演の中で酪農家募集中と言いましたが、これは研究の仕組みとして今まさにスタートするところまできたものをご紹介しました。これからどういう応用技術展開するかを考えなければいけないので、どのセクターの方でもお話を投げかけていただければその時には考えていきたいと思っています。

西根

次に福本さんへの質問ですが、1つは「酸性の土壌でアルファルファの栽培をしていますが、どのような方法でやっているのか?」、2つ目は「今後ケレスの混播割合をどのように考えていますか?」という2つの質問がきています。

福本

1問目については講演の中でも言いましたが、土壌にはライムケーキを散布しており、ライムスプレッダーというマニュアスプレッダーにライムケーキを拡散するような円盤を付けたものを使って畑をつくっていきます。コストは製糖工場からの運賃込みでダンプ1台あたり10,500円(別海農協価格)です。この他にライムスプレッダーの借り賃として、機械送料込みでダンプ1台あたり16,500円程度かかっています。

次に混播割合ですが、今はチモシー18kg、アルファルファ5kgで混播しています。20年度はチモシー、試しにクンプウを混播してみました。理由は、講演でもいいましたが、9月に収穫して越冬するまでに30~40cmくらい伸びるので、クンプウを入れると、刈取が1番で10日、2番で10日縮めることができ、3番も刈ることができるのではないかと思い、試しています。

西根

次に山本さんへの質問ですが、1つ目は「TMR以外に補助飼料の給与を行っていますか?」という質問です。2つ目は「今後、家畜糞尿を利用した堆肥を生産し、牧草地に還元するなど耕畜連携による循環型農畜産業を目指すことなどを視野に入れていますか?」という質問ですが、この質問には、こういう情勢の中、モデル的な農場になり得るのではないかという期待も込められています。また、3問目に「地域貢献として労働力不足の農家にTMRを供給することが可能ですか?」という質問がきております。2番目の耕畜連携については高山場長もご意見があるかと思われますのでよろしくお願いします。

山本

補助飼料についてはトップドレスでの配合飼料給与と理解しましたが、現在はやっている構成員はいません。現状、TMRの基準濃度が乳量34kg設定のみで、搾乳用はそれ一種類のみです。TMRセンターがスタートしたときはもう少し濃度が低いTMRをつくっていたので、その時はトップドレスしていましたが、徐々に濃度を上げていき、最終的に33~34kg乳量の設定となっています。2問目の質問については高山先生と重複する部分がありますので後にさせてください。

3問目については、平成19年に構成員が1戸増えたという話をしましたが、それが1つの例であります。家の事情で搾乳はできるが畑の収穫、管理ができないということで何とかセンターで面倒みてくれないかということから始まりました。その農家は搾乳牛100頭規模で、ちょっと調整した形で1戸引き入れた経過にありますが、現状では何とかなるかなという感じです。ただ、これが2戸、3戸と増えていくと厳しい状況になります。そのときは管理作業を含めて外部委託も考える必要がかなり出てくるかと思います。

2問目については、講演の中でも高山先生が話されていましたが、家畜の頭数が増えてきて牧草畑やデントコーン畑に大量に糞尿を漉き込むようになり、減肥しないとサイレージの発酵品質が何故かよくないということに10年ほど前に気付きました。適期に収穫し、鎮圧、早期密閉もして、何も問題のないように思えても、いざスタックを開けると臭いが良くない、色も真っ黒で牛に食べさせると病気になる、何かがおかしいと思ったのが10年前のことでした。そこでいろんな人の話を聞き、化成肥料を思い切って減らすことを構成員全員にやってもらっているのが現状です。ただ、実際に自分の堆肥を分析している訳ではないので、化成肥料をどこまで減らせるかはわかりません。そこで、毎年kg単位で化成肥料を減らしながら畑の状態を見ています。このどこまで減らすことが可能かという点については高山先生にお答えいただければと思います。

高山

今、根釧農試で施肥管理者育成を行っていますが、スラリーの成分自体が農家によって違うため一概には言えないのが実情です。実際に施肥設計してみると、やり過ぎる人もいるが、逆に足りていない人もいる。個別の堆肥までというところではやはり分析が必要ですが、イメージ的にはスラリーは窒素とカリが十分あり、液肥のように効くと思います。あと春にたっぷり畑に入れると1番草に入ってしまうので、その部分で余ったものを耕種農家の畑に持っていけると思います。

ただ、耕畜連携と言ってもいろんな形があると思います。私は畑の専門家ではないのですが、品目横断で作るものが決まってしまい、実は畑が余っているような人もいた。そういう人は何をするのかといったら、雪印の緑肥をつくりたいという人もいた。やはりお互いに利害が一致しないとなかなか上手くいかない話だと思います。そういう畑が余っているという耕種農家が出てくれば、そこで頭数を増やした酪農家がトウモロコシを作らせてもらうことも考えられます。ただ牧草をつくるという訳にはいきません。牧草はだいたい永年草なので、畑を3年間酪農家に貸すという訳にはいかないでしょう。一部で、イタリアンでリードカナリーをやっつけようという話をすると、イタリアンは一年草なのでそれを作れないかという話もあります。特に道東では雑草化しないで枯れてなくなってしまうので、そういったことも可能性として考えられます。

西根

次に高山先生にはアルファルファとシバムギについて質問がきています。アルファルファについては「日本ではアメリカのようなアルファルファ単播草地は可能でしょうか?」という質問と、もう1つは端的に「シバムギ自体を改良して牧草として活用できないか?」という質問です。

高山

アルファルファの単播ですが、これは地域条件によります。例えば、福本さんがやっているチモシーとの混播はアルファルファ5kgですが、十勝の条件のよいところ、北見、網走、あるいは道央あたりは混播すると結果的にアルファルファ単播になってしまいます。そういう地域では可能かと思います。ただ、いろんな問題が出てきますので、作るのであれば危険分散の必要があります。例えば混播の割合をチモシー5kg、アルファルファ18kgと逆にして、初めは畑全面播くのではなくて試しにやってみるのがよいかと思います。ただし、コーティング種子で根粒菌をきちんと付ける必要があり、できれば以前アルファルファを作った経験のある畑だとより良いかと思います。

あと、カルシウム、マグネシウムが重要です。いろいろな畑を分析すると、PH6.2のレベルでもカルシウム含量が低い畑もあります。アメリカのコロンビア州やワシントン州などはいつも種採りをしているようなところですが、土作りなど余り考えていません。日本では堆肥を入れなければいけない砂のような土壌ですが、彼らにはそんな有機物は持っていません。そういう場所でも可能なことを考えると、向こうは大陸気候でどんどん蒸散し、土壌の上部にアルカリ分というかカルシウム分が溜まってくるのだと思います。やはりそこが重要なのだと思います。中国の荒涼としたところでも、内陸に入ればアルファルファの立派な草地があります。決してそこには堆肥は入っていません。そこのところを農場の仲間ともう少し詰めていきたいと考えています。ただ、実際にはアルファルファ単播でやっている農家もいますので、別海では福本さんがチャレンジしていただければ地域貢献になるのではないかと勝手に思っています。

次にシバムギですが、農場の仲間でもそういう話が出るのですが、種子が非常に採りにくく、なかなか難しいと思います。それよりもまだ改良の余地があるのはリードカナリーだと思います。リードカナリーでよいサイレージを作っている人もいますし、リードカナリーがベースにならざるを得ない土地条件で立派な飼養管理をしている人もいます。シバムギについては、一部東北農試が材料を集めていたというのは聞いたことがあるのですが、その後はわかりません。ただ、世界は広く、シバムギの品種改良をやっていたアメリカの大学の先生に一度会ってきたことがありますが、個体選抜をして何に使うかというと、向こうは旱魃で緑が少ないので、飼料用ではなくロードサイド用に利用しているという話でした。シバムギは上手く作っている人もいると思いますが、肥料を入れすぎたら窒素を吸いすぎてカリを吸ってしまうということで、逆に肥料を減らしたら今度は収量がとれず、やはり煮ても焼いても食えないと思っています。リードカナリーならちょっと早めに刈るなどもう少し手の打ちようがありますので、おそらく道北の方でチャレンジしている人もいるのではないかと思います。

西根

福本さん、何かアルファルファの単播についてご意見ございますか?

福本

今まで考えてなかったのですが、アルファルファの単播をサイレージにして牛に食べさすことは少し難しい気がします。別海はアメリカのような乾燥地帯ではなくルーサンヘイなどは無理であり、あまり単播にする必要はないと思っています。

西根

本日のシンポジウムは技術的な部分に焦点を当てた訳ですが、やはり福本さん、山本さんにお聞きしたいのは経営的な部分でないかと思います。福本さんにはアルファルファを導入されてから5年、経済的な効果で実感されている点、苦労された点などをお話いただければと思います。山本さんには、非常に配合飼料が高くなりTMRの利用価値が上がったとか、運営の面で苦労されている点などをお聞きしたいと思います。

福本

アルファルファ混播のサイレージについては、去年は1番草でバンガーサイロ2本、2番草で1本できるようになったので、今は1番と2番を混ぜてTMRで給与していますが、配合飼料は1回で100kgくらい減らしても乳量は若干伸びています。1日でいえば配合飼料は1日に300kg減らすことができています。

苦労話は特にないのですが、今の若い農家は私の息子を含めてあまり畑を見ることが少ないと感じています。そういう点で、牧草を作ることによって現地でいろいろな研修を行い、皆で畑を見るといったことが今後の自給飼料の増産のためには必要かと思っています。ただ、アルファルファというのはどこかで難しいと皆思うのか、研修をやっても農家10人も集まればよいという現状です。現在、別海もアルファルファ混播の草地が300haくらいになってきたので、あちこちでこういった畑が見られるようになれば、また多くの人が集まって研究するようになるのではないかと思っています。

山本

配合飼料が昨年、一昨年と高騰してきた時期に、たまたま私どものTMRセンターを設立したのですが、やはりスケールメリットがある中で、他の農家より若干安く配合飼料を手に入れることができてよかったと感じています。

苦労話としては、挙げればきりがないのですが、まだ3年しか経過してない中でわからないことだらけであり、皆で話し合いながらよい方向に向かっていこうというような形で進んでいる段階です。

西根

ここで会場からの質問はありませんでしょうか?

会場からの質問

大学の農場では、アルファルファ単播で刻んでバンガーサイロに入れたものは問題ないが、ロールサイレージを育成牛に給与すると茎が硬すぎて食べないという問題がある。そういう場合、どういった方法でロールサイレージを食わせられるか?という事例、あるいは今後、茎を細くしても倒れないという改良の方向性はあるのか?をお聞きしたい。

高山

食べさせる方法については、専門家の方が何人か見受けられるのでアドバイスいただければと思います。育種についてはアメリカが1番進んでいまして、その方向としては、1番は耐冬性、凍害への抵抗性であります。今ではグリムという品種を導入したおかげでアメリカより北のカナダでも栽培可能になり、それで凍害にも強い品種ができました。また、大面積で連作になりますので、フィトフィトーラ、バーテシリウムなどの病気が出てくることから、次に行ったのが耐病性の育種で、なおかついろいろな病気に強いものをつくろうとしています。7~8年前は今の質問のように、栄養価、特にあれだけタンパクが高いアルファルファをもっとタンパクが高くて茎が細く、産乳の効果が高い育種を行っていました。

では私の育種のレベルがどういうかと、ひょっとしたら同時並行かもしれませんが、まだまだ耐病性、耐冬性のレベルだと思います。茎の細いものをつくっていくとやはり倒伏してしまいます。細くて永続性のあるものは私の材料にもあるのですが、なかなかそこがクリアできません。ただ、アルファルファは北から南まで世界中で作られており、8回でも刈れるものもあれば逆に9月以降まったく伸びないものもあります。可能性としてはまだまだ良い品種が出てくると思っています。

山下

それでは、会場に天北農試の宮崎部長さんが来られておりますので、この質問に対して何かよい事例がありましたらご紹介いただければと思います。

宮崎

天北ではアルファルファは個別農家で少しずつ作られ、混播が主体で利用されている現状であります。その中でアルファルファだけでロールをつくるという事例は見ていないのでちょっとお答えすることは難しいです。

西根

それでは最後に山下の方から総合討議のまとめをさせていただきます。

山下

現在の情勢の中、自給飼料を増産することについては、政府も道も、私たち民間も、酪農家の皆さんもそういう方向で努力されている訳ですが、実際に生産に直結して頑張っているのは乳牛であり、今回は単に自給飼料だけではなく、その乳牛の部分にも少し自給飼料の強化と何か結びつくものがないかということで、田鎖先生にその基調講演をいただきました。

また、第一線で自給飼料に取り組んでおられるお二人、福本さんはケレス友の会の中で仲間とともにアルファルファの栽培に取り組み、地域全般に広げていきたいという使命を持っておられます。山本さんはTMRという組織化の下で、地域、そして先ほどの質問の答えにもありましたが、仲間が運悪く自給飼料生産ができないというは今後もどこにでも起こり得る状況であります。そういう中で、TMRの組織化がいくらかでもそういった場面のバッファーというか、救済できるような手段となっていけば、少なからず地域が発展していく礎の一つになるのではないかと思いました。

高山場長におかれては、ブリーダーでありながら、最も北海道全体の草地、飼料作の場面を歩かれているということで、農場の話にとどまらず現場の話を中心に新しい技術の紹介をしていただきました。

特にこれ以上どういった形でまとめるという訳ではありませんが、本日ご参加いただいた皆様におかれましては、今後、酪農畜産が進むべき1つの方向を掴み取っていただけたのではないかと思います。またこれを機会に、本日壇上におられます、それぞれの先生方とも連携をとりながら、力強い酪農畜産の発展のために共に進んでいきたいと考えます。

特に今年は丑年であり、本年の酪農畜産発展のためにそれぞれがご努力いただければ今回のシンポジウムの目的を達成できるものと考えます。

本日はご参加いただき誠にありがとうございました。

以上

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