シンポジウム
2007年(平成19年)2月13日
フードシステムからみた生乳需給の現状と展望-いかにして国産乳製品需要を拡大するか-
第2講演『国際市場動向とチーズ国産化の可能性』
チェスコ(株)社長 大塚 義幸 氏
1.はじめに
チェスコという会社は50年前、まだチーズを食する文化がない時代に創業者の松平博雄氏がチーズの魅力に魅せられて、ヨーロッパからナチュラルチーズを輸入し、地道に活動してきた会社です。この業界の草分けであり、今日まで輸入ナチュラルチーズ専門商社として日本のリーディングカンパニーとしての地位を築いてきました。現在では海外14か国から500種類以上のナチュラルチーズを輸入販売する会社です。今回は長年チーズを取り扱っている実績から、「日本チーズ市場の今後」とそのなかで「国産チーズの可能性」について報告したいと思います。
2.世界の酪農と乳製品(主にチーズ)事情
(1)世界の酪農概況
世界の乳牛頭数を見てみると、インドがダントツの1位で8千万頭を超えております。私は1年半前にインドに2週間ほど滞在しました。インドでは都市部と郡部の区別なく必ず牛を見ます。インドの国土が全部牧場と言っても良いくらい牛がいます。その理由は2つあります。1つは牛肉を食べない、つまり宗教上の理由で牛が増えます。2つ目は土地を持たない貧困家庭に対しては、国からメス牛が1頭与えられるのです。これはインドに餓死者が少ない理由の1つでもあります。次にブラジルの1千5百万頭、続いてロシア、中国、アメリカの順になります。また、直近では中国の乳牛頭数が躍進しています。
次に世界の生乳生産量はやはりインドが第1位ですが、頭数の割にはアメリカと拮抗しています。これは統計に現れないインドの家庭内需要があるからで、産業ベースでみればアメリカが実質的に1位といえます。2006年データでは中国がロシアに次いで4位。日本はカナダに次いで15位です。
(2)世界の乳業概況
世界の乳業の規模を国別およびブロック別にみると、EUが第1位の規模で、次にインド、アメリカ、ロシアと続いています。2000年から2005年にかけての乳業規模の推移をみると、中国が最も伸びており、これから先2010年までの予測値では中国で8%、アルゼンチン5%、インド4.1%の伸びが期待されています。
(3)世界のチーズ生産および貿易動向(2004年)
世界のチーズ生産量は総計1,362万tです。 その世界のチーズ生産量を国別にみると、圧倒的にアメリカの生産量が多く403万t(14㎏/人)です。日本でチーズといえばフランスを中心とするヨーロッパやオセアニアをイメージしますが、意外にもアメリカが第1位で、2006年には420万tレベルになっていると思います。アメリカの次にドイツ、フランス、イタリア、オランダのEU各国、そしてブラジル、オーストラリアが続きます。生産量第1位のアメリカとそれに続くEU25か国(計643万t、18.1㎏/人)の2地域でチーズ生産量全体の80.4%を占めているのが現状です。日本はスイスの次で15位ですがアジアでは最大の生産量(プロセスチーズを含む生産量)です。
日刊酪農乳業速報 資料特集67(ZMP,National Statistics,USDA,FAO ,STAT ,EUROSTAT. European Commission,
日本のみ農林水産省統計部「牛乳乳製品統計」)
またアジア圏をみると日本のナチュラルチーズ生産量は3.8万tでトップ、韓国が2.4万tで2位。この2国がダントツの生産量となっています。
次に世界のチーズ貿易をみると、輸出入されているチーズは約100万tで、これは世界のチーズ生産量の7~8%水準しかありません。つまりチーズの輸出入量は生産量からみればごく限られた量だということがわかります。
チーズの最大の輸出地域はEU、次にオセアニアです。アメリカはチーズの国内消費も多く生産量が世界一の割にはあまり輸出していません。
チーズの最大の輸入国は日本、次にアメリカ、ロシアと続きます。しかしこれは2004年のデータで、先日発表された2005年のデータではロシアが日本を抜いてチーズの最大輸入国となりました。ロシアのチーズ輸入量は26万tレベル(日本は20万t)で、世界の輸入量の20%を占めています。
(4)世界における乳製品貿易の推移と分業体制
乳製品全体の貿易について、2000年と2005年の地域別シェアで比較してみるとEUのシェアが39%から28%に減少、オーストラリアも16%から12%へ減少しています。一方、ニュージーランドは20%から23%に、アメリカも5%から9%へとシェアを伸ばしています。このように貿易シェアも確実に変化しつつあります。
次に乳製品の全体の世界的な分業体制を見てみると、付加価値の高い商品を作っているのがヨーロッパで、ラテンアメリカは付加価値の低い商品群、アメリカはその中間に位置します。オセアニアの2国はフルライン、つまり高付加価値から低価格商品まで幅広い範囲を網羅する構図になります。
(5)主要国におけるチーズ消費動向
2004年度の主要国における1人当たりのチーズ消費量を見てみると、1位はギリシャで28.7kg、 2位はアイスランドの24.7kg、今までの統計で首位をキープしてきたフランスは23.8kgの3位です。1位から7位までヨーロッパの国ばかりですが、この中の上位3国はどのようなチーズを多く消費しているのか調べると、ギリシァは28kgのうち12kgがフェタチーズ(サラダ等に使用)でした。アイスランドは人口わずか30万人ですから、実質のチーズ消費大国はフランスと思われます。フランスでは熟成させたセミハード系チーズの消費が最大となっています。アメリカは1900年の1人当たりチーズ消費量は1.4kgでしたが、今では14kgと100年間で10倍にも伸びています。オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)は生産量の割には1人当たり消費量は少ないですが、現在も伸びております。日本は2㎏しかありません。これがギリシャやフランスのように毎日チーズを食べる習慣が生まれると一気に市場が膨らむ可能性があります。日本の乳業メーカー各社もこの辺りに多くの期待を込めているのだと思われます。
国別のチーズ消費量は圧倒的にEUとアメリカが多く、日本は7位でその次にはオーストラリア・ニュージーランドが続きます。
以上、チーズの生産と消費の動向を見てきましたが、国別規模や1人当たりの消費量など統一したモノサシで見る必要があります。
(6)チーズ需給をめぐる課題
現在のチーズ需給をとりまく課題を整理してみると、まずは世界的異常気象の影響があります。温暖化が原因とされる旱魃や異常気温など牧草・穀物・乳業に与える影響は深刻であります。生乳生産量が制約されればチーズ生産にも影響がでます。次にBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を合わせた4か国の総称)の動向です。特に中国とロシアのチーズ需要は旺盛ですし、インドやブラジルの動きも注目されます。ブラジルではコーヒー摂取量が増加し、従来輸出されていた良質なコーヒー豆がブラジル国内で消費されるため、輸出向け物量にも影響が出てきています。そのコーヒー需要の拡大とあわせてチーズ消費も拡大しており、その結果、需給バランスが崩れチーズ価格が高騰し、この5年で40%以上価格が高騰しています。したがって国際的な商品確保競争がはじまっていると解釈できます。また、WTO/FTA交渉の行方にも注目しなければなりません。
その状況において日本のチーズ業界にとっての課題はなにか? やはり、最大の輸入先であるオセアニアの輸出戦略が気になります。そしてEUの動きも注目しなければいけません。チーズの国際価格相場はアメリカの影響力が強く、そしてBRICs諸国の需要拡大も影響してくるでしょう。そうなれば、チーズの物量確保に大きな影響を与えます。あわせてEUにおける輸出補助金の削減・廃止の動きです。これに為替変動の影響も重なり、輸入チーズ価格のコストアップは避けられない見通しです。
3.日本の酪農とチーズ事情
(1)日本の酪農概況
日本の酪農は、乳牛飼育頭数が減少傾向、生乳生産量の推移も横ばい状況です。そして生乳生産を北海道と都府県に分けると北海道が46.1%の割合を占めています。
(2)チーズの生産・輸入動向
続いて日本のプロセスチーズ生産量をみると1999年まで堅調に伸びてきたといえますが、2000年以降は横ばいという踊り場的な状況にあります。この理由は3つ考えられます。1つは原料チーズ価格高騰によるコストアップと価格転嫁。2つ目は消費者のニーズにかなう商品開発の遅れ。3つ目は国内大手乳業メーカーの広告宣伝の中止も関係していると思われます。一方、国産ナチュラルチーズは2005年まで順調に生産量が増加し、5年毎の長いスパンでみても成長の可能性は高いと思います。
チーズの輸入量も2000年までは大幅に伸張してきましたが、それ以降は横ばいが続きました。しかし、2002年をボトムに再び増加傾向にあります。
また、チーズの消費量の推移も2000年まで順調に増加し、その後2005年までは横ばいとなっています。その中でナチュラルチーズの一世帯当たりの購入金額をカテゴリ別に見てみると、1番多いのはシュレッドチーズで約半分のシェアがあり、次にクリームチーズ、カマンベールと続きます。この結果をみると、ナチュラルチーズ自身が持つ味わいを楽しむという本来の食べ方にはまだ至っていないように思えます。
(3)チーズの消費動向
プロセスも含めたチーズ全体の一世帯当たりの購入金額はやや低下傾向にあります。但し、これは一世帯当たりの人数が減少し、少子高齢化や単独世帯の増加が影響します。そのなかでチーズのカテゴリ別構成比を見てみると、ここ数年の間に構成比が大きく変化することはないと思いますが、細かくみるとブランド別には大きな変化が起きています。例えば、高級ナチュラルチーズの増加傾向とベビータイプチーズの伸張でナチュラルとプロセスのそれぞれで伸張して構成比は維持されているという現象です。
今度は一世帯当たりのチーズ支出金額を20年という長いスパンで見てみると、なだらかな右肩上がりが1999年まで続き2000年以降停滞しているのがわかります。しかしその間、一世帯当たりの人数は3.7人から3.2人を切るレベルになっていますので、一世帯当たりで見るより1人当たりで見ることも重要になります。
(4)日本のチーズ市場の課題
今までみてきた日本の市場の課題を整理します。
1つはチーズの80%を海外を輸入チーズに依存していることです。これは原料チーズの安定的確保が難しい状況ということを示します。第二は先ほども述べましたが2000年以降の消費の横ばい・低迷という状況です。第三に需給ギャップとコストアップ、それにEUの輸出補助金の行方という原料チーズ価格の問題です。第四に為替の問題です。 このような状況において、大手メーカーを中心にナチュラルチーズの国産生産力拡大へ始動しました。これは海外のチーズのコストが高くなってきたことと、自国生産による生産量の安定確保、自給率の向上にも繋がると思います。
4.チーズ需要拡大の歴史的背景
(1)ナチュラルチーズ需要拡大のエポック
今度はチーズ需要をどのように増やすのかを探るため、過去の動向を振り返ります。日本のナチュラルチーズはいくつかのイベントやブームに乗じて、またチーズを使用した料理レシピの普及と共に拡大してきました。
まず昭和39年の東京オリンピックです。海外からの観光客用にチーズの導入が促進され、その中でチーズを溶かして食べるピザが紹介され、消費の火付け役になりました。次に昭和45年の大阪万博です。オランダ館のチーズコーナーなどでヨーロッパのチーズが紹介され認知されるようになりました。平成2年には雑誌『Hanako』で紹介(取材元はチェスコの運営するチーズショップ「バランセ」)され大ブームとなったティラミスは、イタリアのマスカルポーネを使っており、マスカルポーネが日本に定着、更にクリームチーズでチーズケーキができることが消費者に浸透するにつれ消費が拡大していきました。
そして平成11年は[日本におけるフランス年]でフランスワインが消費拡大しました。このブームによりワインのポリフェノールの効果がアピールされたこともあり、ワインの消費拡大とともにカマンベールの需要も拡大、その他にもボージョレヌーボーとチーズの組み合わせや、 近年ではイタリアブームにより、イタリア料理に欠かせないモッツァレラやパルミジャーノレジャーノ等のイタリアチーズがピザやサラダ、パスタ等のイタリア食材に欠かせないチーズとして定着しつつあります。
直近では、一昨年になりますが、参議院で郵政民営化法案が否決され衆議院が解散するということをめぐって、平成17年8月に森元首相と小泉前首相との会談後、「ビールのつまみに干からびたチーズを出した」と森元首相がコメントしたことから火がついたフランスのミモレットは現在も順調に消費が拡大しています。ミモレットという名前が広くメディアで取り上げられ、結果として素晴らしいプロモーションとなった事例です。
(2)これからのチーズプロモーションを考える
これらの事例から言えることは、チーズのプロモーションによって今後も成長の可能性があるということ。チーズマーケティングの需要拡大の可能性はかなり高いということを確信しました。
また最近では、チーズにガンや生活習慣病の予防・改善に繋がる有効な成分が数多く含まれていることが指摘されてきており、これらの効能が解明されれば美味しさや栄養だけではなく保健機能食品としても非常に有望な食品です。これらのことからも今後はチーズ需要の拡大が期待されるでしょう。
5.社会情勢と食生活の変化
(1)社会情勢と食生活の傾向
次に日本の食生活の変化と背景について、「少子高齢化」、「世帯人数の減少」、「中食の増加」という3つの視点で捉えながら考えてみたいと思います。
まず「少子高齢化」ですが、今後14歳以下は減少し、そして15歳から64歳も減少しているのに対して、65歳以上は年々増加し続けます。その結果、トータルでは人口が減っていくことが予測されます。
次に「世帯人数の減少」です。単独世帯の割合は確実に増加し、単独世帯と二人世帯の合計は54.7%にもなっています。つまり全世帯数のうち過半数が二人以下の暮らしとなっています。
そして「中食の増加」ですが、1988年から食料全体の支出が低下傾向を示し、低価格化の影響が出始めました。しかし、調理食品の支出は顕著に増加しております。
(2)2007年問題と食費支出の関係
また2007年問題も見逃せません。団塊世代の最年長者が60歳を迎えて、その後5年間で総人口の約8.5%が新たに60歳になります。その結果、リタイアされた方の世帯が増加する傾向にあります。この2007年問題が食品市場の縮小を招く可能性も考えられます。そこで今後はどのような食生活になりつつあるのかを探り、そこからチーズ市場の未来にアプローチしてみます。
統計データを分析すると、就労者の全てが60歳になると同時に完全にリタイアするわけではありません。60歳代前半の男性は7割、女性は約6割が仕事をしています。しかし60歳代前半になると男性雇用者の3割が短時間勤務へとシフトします。その背景には団塊世代の新しい仕事へのチャレンジ意欲や大企業の技術の伝承対策、そして中小企業も団塊世代のキャリアを求めているという現状があり、雇用の確保は当初言われたほどではない状況といえます。
このような状況下で勤労者世帯の実収入に対する支出用途を調べてみます。勤労者世帯といえども60歳代前半になると、50歳代後半より収入が大きく減少します。しかし、それに比例して消費の規模を落としているわけではなく、とりわけ食費の減少割合は軽微となっています。また就業の有無による用途別の支出額の差をみても、就業「有り」に比べて「無し」の世帯は、消費支出水準は87%であるのに対し食料支出水準は94%にしか落ち込んでおらず、就業の有無において食料支出の格差は小さいといえます。次に世代別の1人当たり食料支出をみると、世代が上昇するに伴い支出額も増加し、65歳前後に支出額のピークを迎えます。しかし、就業の有無による消費構造の違いにおいて食料支出はほとんど差がありませんが、外食支出には大きな差が現れていますし、リタイア世帯では自動車関係費も顕著に差が出る傾向にあります。
(3)熟年層のライフスタイルと食事情
「60歳以上の夫婦のみの世帯の消費支出」をみると、「教養娯楽費」は就業の有無ではほとんど差がないことから、自己実現分野への支出は削らないことが分かります。したがって食費などの必需支出と生きがい関連支出は就業の有無により支出の差は少なく、奢侈的な支出ではリタイア世帯は節約に向かうといえます。
また食事と家事の時間を世代別にみると、食事時間は50歳代前半から70歳代後半にかけて増加します。逆に女性の家事労働時間は40歳代に比較して50歳代以上は短くなっています。つまりこれは、世代を重ねるにしたがって主婦の生活は「夫婦の会話など、食卓でのゆとりを重視する傾向」に繋がっていると解釈することができます。
(4)少子高齢化と熟年層の生活像からチーズ需要を考える
これまでの分析からわかることは、まず人口減少するが少子高齢化は1人当たりの食費への支出は高まる傾向がうかがえます。単身単独世帯の増加よりチーズのサイズや食べやすさが課題になります。さらに手軽な調理食品の支出は増え続けています。また消費支出の実態からは、食費を健康への投資と考える傾向がわかります。団塊の世代は60歳になると同時に全てがリタイアするのではなく、収入が減少しても食費を極端に削るわけではない。また、「就業の有無によって食費水準に差は生じない」、「世代が上昇するに伴い1人当たりの食料支出は増加する」、「50歳代から食事時間は増加していき、女性の家事時間は減少するので食卓のゆとりに繋がっている」、などの傾向が見て取れます。
今まで様々な観点から、しかも丁寧に事実を探ってみましたが、ここで少し願望を含めながらまとめてみます。
まず、少子高齢化が進んでも高齢者が食費を極端に節約することはなく、むしろ1人当たりの支出金額は増加すると考えます。そのなかで、美味しいものや健康志向のものを提供できれば市場性は高いと思われます。その状況においてチーズの健康価値が啓発されれば、新たな需要を生む可能性は高いといえます。
オーストラリアでは65歳以上の人口増加につれプレミアムチーズが伸張しました。65歳以上の人口が1970年の3倍になった現在、高級チーズか売れ始めているという事例です。知的好奇心を満たす食品の1つにチーズがあり、それを団塊の世代の夫婦が食生活に取り入れているとも考えられます。
6.チーズユーザーの特徴と需要拡大の可能性
(1)チーズユーザーの傾向と特徴
もう1つレポートを報告したいと思います。ナチュラルチーズの購入頻度別にユーザーの特徴を見ます。ナチュラルチーズを購入されるお客様は、一般の方に比べて食に対する興味が強い傾向がうかがえます。そこでチーズ専門店やチーズ売り場に頻繁に立ち寄るお客様の属性と意識を分析してみましたので報告します。
まずチーズ専門店によく行くと答えた方は全体としては少数派でしたが、その傾向は未婚同居女性や世帯年収で750万円以上の人が比較的多く、一方では450万円未満も約4割の構成比になっています。
チーズ専門店へよく行くと答えたお客様は、食品の価格に対してはそれほどシビアではありませんでした。同時に酒類全般を高い割合で飲む、特に赤ワインを飲む割合が高いことがわかりました。
チーズに関する情報源を尋ねてみると、チーズ専門店によく行くと答えた人はチーズに関する情報を比較的能動的に集めていることがうかがえます。料理の本やレストラン等のメニューあるいは店の販売員の話やインターネット、パソコン通信などから得られる情報を積極的に集めています。
チーズ専門店によく行く人のチーズを食べる理由は、チーズそのものの「コク」「様々な種類」「クセ」などを楽しんでいるとうかがえます。これはチーズの持つ特性を本命にしているといえ、逆にそれ以外の人は「調理したチーズの美味しさ」「簡単なおつまみ」「パンとの相性の良さ」などを評価しており、チーズそのものを味わうのではなく、チーズを食材の1つとして位置づけているのがわかります。
チーズ専門店によく行くと答えた人がチーズについて普段気にしている(購買を妨げている)点は、「食べると太りそう」などという健康への悪影響で、これは牛乳消費の実態調査でも同様の結果がでています。逆にあまりチーズを食べないライトユーザーは、「チーズの種類が分からない」、「クセのある味」、「臭いが嫌い」などの理由をあげています。
これらの要因をみると、逆にチーズのマーケティングは可能性があるということを示しているのではないでしょうか。つまり、正しい情報の伝達がチーズの需要拡大には必要ということです。
(2)チーズ戦略は女性へのアプローチが鍵を握る
これらのことからまとめてみると、チーズの専門店によく行く人は、未婚同居女性が多く、また世帯年収では750万円以上、そして450万円未満でも4割の方が利用している。そして食品の価格に対してはシビアではなく、お酒を飲み、特に赤ワインを多く飲みます。そしてチーズについて積極的に情報を収集し、チーズそのものの「コク・味・クセ」を楽しみます。一方、ライトユーザーはチーズを食材の1つとして捉えており、知識もそれほどは持っていません。
チーズの専門店によく行く人がチーズについて気にしている点は太るということです。これはカマンベールチーズにしてもトロっとしていることから高い脂肪を連想しているようです。従ってチーズ戦略は女性へのアプローチが鍵を握っています。チーズに関するイベントにおいても会場に来る参加者の70%以上が女性です。チーズに関する情報提供、アルコール類との組み合わせの提案、チーズは太るという誤解の解消、ヘビーユーザーとライトユーザーそれぞれへの商品開発、チーズの持つ本来の良さの啓発(クセ・カオリ・ニオイ・ウマミなど)など、着目するべき項目はたくさんあり、本当のマーケティングはこれからだ、という気もしています。
7.チーズ文化を日本に定着させるために
さてまとめになります。国産や北海道産の食品は安全・安心というイメージが先行するメリットがあります。私どもチェスコとしましても、直営ショップで昨年の秋から北海道のチーズ工房で生産された道産ナチュラルチーズのテスト販売を試みております。世界のトップレベルのチーズと同じように、北海道のチーズ工房のチーズを並べて、お客様の購入意図、購入意向、価格についてどのような反応を示すかを分析しています。その結果、十分に需要があると判断しています。私たちはチーズ文化を日本に定着していきたいと思っています。チーズ文化が定着する可能性は、生産・流通・販売によるサプライチェーンマネジメントの展開だと思います。成り行きに任せるのではなく能動的に取組むことで結果を出す、それがディマンドチェーンとして帰ってくるのではないでしょうか。
最後になります。今回いろいろお話しましたが、チーズは食品のなかでも年齢・性別・国・民族・文化・宗教を問わず広がってきており、人類にとって価値のあるものです。それぞれの地域には味わいある特有の醗酵文化があり、それはとても楽しい商品でもあります。チーズの売り場を見ても様々な色・サイズ・形状・パッケージ・熟成度合いのものがあり、見ているだけでも視覚的・嗅覚的・芸術的な・楽しい売り場であります。人間を幸せにする最高の食品を私たちはこれからも売ってまいります。そして北海道産のナチュラルチーズも売り場に並べていきたいと思っております。
ご静聴、ありがとうございました。