「実証圃場」調査研究のまとめ

調査研究報告・提言へ戻る

2010年(平成22年)10月13日

雪印種苗と雪印メグミルクの事業連携報告

自給飼料『実証圃場』調査研究2ヵ年のまとめ

雪印メグミルク(株)と雪印種苗(株)が連携し、酪農生産現場への貢献とその持続的発展へ資する目的で、平成20年春より、道内23カ所にて、自給飼料の生産・利活用に関する需要喚起『実証圃場』調査事業を展開してまいりました。
第2年度にあたる平成21年は、10課題(11ヶ所)に絞込み、調査研究を展開してまいりました。その概略については、「雪たねニュース」「酪農」誌、「酪総研」ホームページ、などを通じ、幅広く情報発信を行ってまいりました。

酪農総合研究所は、本調査事業の推進役を担ってまいりました。関係された多くのグループメンバーを代表し、ここでは、課題別にその総括と今後の展望を要約し、ご報告とさせていただきます。

課題別の総括、並びに今後の展望

【I】「作溝型更新機械」を活用した草地(簡易)更新

  1. 【技術要素】

    手軽な草地更新で、草地植生を改善することができる。
  2. 【汎用性】

    通常の簡易更新の他に、(1)傾斜地では、(不耕起のため)土壌流亡を抑えることができ、(2)放牧地では、(植生を活用するため)休牧期間を抑えることができ、(3)雪腐れ、冬枯れ草地では、(植生競合が回避され)速やかに草生を回復させることができる。このように固有のメリットを活用する場面が拡がり、汎用性は高い。

    No5.「美瑛町 X牧場」では、(1)+(2)の設定で、作溝型機械更新が行われ、それぞれのプラスメリットも加算され、順調な推移を辿っている。(放牧地は、データの集積が困難であり、当牧場は、21年度をもって完了することとした。)

  3. 【作溝型更新機械の比較】

    雪印種苗(株)北海道研究農場が所有する「シードマチック」と「ブレド」について、いろいろな場面で、比較検討が行われている。
    実証圃場調査事業でも、中川町でそのトライアルが実施されている。試験場、農改センター、役場などが参画され、詳細なデータとりも行われている。

    No2.「中川町 A牧場」では、(2)放牧地設定の下で、上記両機種の比較と、初期放牧の有無を加味した検討が行われている。
    初年目~2年目の経過では、「シードマチック区」と「早めの放牧開始区」の組合せが良好と判断されている。

    写真-1 手前「ブレド」、奥「シードマチック」

    写真-2 「シードマチック」による作溝播種跡

  4. 【草種の検討】

    放牧地では、ペレニアルライグラス「フレンド」が初期生育に優れ、放牧適性もそなえ、利用性が評価されている。一方、採草地においても、ペレニアルライグラス「フレンド」の活用をチャレンジするケースも増加している。

    No.3「八雲町 B牧場」:では、泥炭土壌における、リードカナリーグラス主体草地の草質改善の目的で、オーチャードグラス「バッカス」の導入がトライアルされている。随伴草種として、イタリアンライグラス「マンモスB」とハイブリッドライグラス「テトリライト II」の比較も同時進行で進められている。

    2年目の段階では、ハイブリッドライグラス「テトリライト II」区がその草生比率、収量性で優る傾向を示している。最終的には、オーチャードグラスの植生定着率が重要となり、その推移を見守りたい。

  5. 【経済性】

    雪印種苗(株)北海道研究農場による試算では、完全更新と比較し、約55%の費用(289,200円/ヘクタール)で更新でき、経済的な有利性も高い。(酪総研シンポジウムレジメより)
    草種、品種によって、若干の違いが生じるので、詳細は、雪印種苗(株)営業所へご相談ください。

  6. 【問題点】

    (1)機械の貸しまわしの状況では、播種作業遅れが生じやすく、致命傷となりかねない。

    (2)歩く程度のスピ-ドで、ゆっくりした作業が必要で、スピードをあげると失敗しやすい。

  7. 【今後の展望】

    (1)「完全更新」は、土壌改良に重点がおかれ、土壌改良資材や堆肥を充分に投入(活用)できるメリットがある。ただし、作業料、資材費ともに割高となり、更に、作業日数もかかる。

    (2)この「簡易更新」はまさに、上記の逆となるが、【汎用性】でふれたようなシチュエーションでは、有利性が増してくる。

    (3)単に低コストに惹かれて採用するのではなく、長所と短所を把握して、長所を如何なく発揮できる場面で採用することが、望まれる。

    (4)草地面積が100ヘクタールを越える農家、経営体が増加しており、コントラクターを含め、草地管理機械の一つに「作溝型更新機械」を所有する時代が到来しつつあると思われる。

    この場合、適期播種作業が可能となり、本技術要素の最大の問題点をクリアーすることとなり、成功の確率も高まってくる。

【II】イタリアンライグラスを活用した、「草地強害植物」(雑草)の抑制

  1. 【技術要素】

    生態学的な雑草の抑制法、環境にやさしい手法といえる
  2. 【導入場面】

    「シバムギ」「リードカナリーグラス」「ギシギシ」等が沢山存在する圃場では、その更新に当たって、事前にそれらの強害雑草を叩いて、清浄な圃場を準備することが必要となる。
    一般的には、除草剤が使用されるが、漁業との関連で、「禁止」または「不使用」とされる地域があり、そのような場面では、この技術要素が力を発揮することになる。

  3. 【汎用性】

    上記のシチュエーション以外では、(1)もともと除草剤を使いたくないという人、(2)有機牛乳の生産と取り組む経営体(グループ)など、(3)今後は、イタリアンライグラスの魅力をより取り込もうとする人、等へ、時間をかけて拡がりを見せるものと思われる。

  4. 【抑制メカニズム】

    イタリアンライグラスの優れた初期生育と伸張性を活かし、強害雑草を被圧し、刈り取り後も、イタリアンライグラスの卓越した再生力を活用し、被圧を重ねることで、衰退をはかる。
    この方法を2ヵ年継続することによって、実害が無い程度に、強害雑草の抑制ができる。

    写真-1 幌延町におけるイタリアンライグラス(マンモスB)によるリードカナリーグラスの抑制草地

  5. 【問題点】

    北海道では、一年~短年利用のイタリアンライグラスは、通常、利用(栽培)されていない。その草種特性も把握されていない。従って、イタリアンライグラスの特性を把握するところからのスタートとなる。

    II番草での充分な被圧を実現するには、 I番草刈り取り後の、窒素肥料の追肥が必要となり、一昨年実施の、天塩町、幌延町では、この対応が欠けていた。窒素成分で40キログラム/ヘクタールが基準となる。(農家心理として、この段階での追肥は抵抗があるのかも知れないが、ここでケチると、もとのもくあみとなる。)

    No1.「幌延町 C牧場」:2年目の取り組みにおいても、 I番草収穫後の追肥が実行されなかった。従って、リードカナリーグラスの抑制も部分的なバラつきが認められ、今春、チモシー草地へ戻すに際しても、除草剤利用の是非で悩む結果となった。

  6. 【経済性】

    イタリアンライグラスの種子代は、牧草の中でも安価なほうで、物財費ベースでは、除草剤処理と大差がない。しかし、2ヵ年という期間をどう評価するのか、今後の課題でもある。

    2年間、イタリアンライグラスをしっかり栽培し、その収穫物を上手に調製利用し、飼養効果へつなげてゆくことが、抑制効果と経済性の両面で得策と言える。

  7. 【今後の展望】

    (1)この技術要素本来の定着は、当面、除草剤が使えないエリア・生産手法に限定されてくる。

    (2)平場(泥炭地)における、リードカナリーグラスの抑制は、土壌排水の良否にも左右され、全面的な抑制はなかなか難しい。一方、山場(重粘地、など)における、リードカナリーグラスの抑制は、成功の確率が高いものと思われる。

    (3)今後は、リードカナリーグラス主体草地の【栄養価、嗜好性改善の技術要素】の一つとして、イタリアンライグラスの追播が採用される可能性もある。

    こちらは、リードカナリーグラスを上手に活用するというスタンスであり、これも生態学的な手法と言える。

    (4)反収が上がり、かつ、高栄養というイタリアンライグラスの利点が、今後は、土地条件の制約を受ける畑酪地帯などで活かされる可能性もあり、そのようなニーズがあれば、「実証圃場」としての展開・トライアルを試みたい。

【III】冬枯れ抵抗性アルファルファ『ケレス』の普及促進

  1. 【技術要素】

    新品種『ケレス』の特性を、良質自給飼料増産場面で発揮させる
  2. 【ケレスの特性】

    (1)越冬性、永続性が優れ、全道で利用可能 (2)冷涼地帯で多発するソバカス病に強い (3)収量性が優れる (4)バーティシリウム萎ちょう病抵抗性品種。
    ※育成段階から、雪印種苗(株)芽室試験地(十勝)、別海試験地(根室)で、系統の評価・選抜が実施され、その結果、土壌凍結地帯における優れた適応性も付与されている。

  3. 【汎用性】

    今まで、アルファルファの栽培が困難とされてきた、十勝や根室においても、実用的な栽培が可能である。試作協力をいただいている、大樹町 K牧場、別海町 F牧場では、播種7年目、利用6年目の混播草地が利用されており、その優れた適応性・永続性が実証されている。

  4. 【経過】

    No.4「大樹町 D牧場」は、播種適期を遵守され、2ヵ年にわたる越冬も順調、その後のスタンドも良好で、トップ収量をあげている。

    No.6「中標津町 E牧場」では、簡易更新と全面更新の比較も加味されており、当初は全面更新区のスタンドが良好であった。簡易更新区については、初年目冬期に追播(フロストシーディング)などの救済手当てがなされている。その結果、利用1年目の II番草では、両区とも同程度のスタンドが確保されている。

    写真-1 大樹町D牧場(21.5.18)―利用1年目1番草―

  5. 【経済性】

    第2年度より、別海町「ケレス友の会」のメンバー、No.7「別海町 F牧場」が「実証圃場」調査事業に加わった。
    7ヵ年にわたる「ケレス混播草地」が用意されており、それらの自給飼料生産場面における経済性について、ご協力をいただきながら、その有利性を明らかにしたい。

    写真-2 造成6年目 II番草(21.7.23.時点)

  6. 【問題点】

    No.9「岩見沢市 G牧場」では、播種期が9月16日と、約1カ月遅れでのスタートとなった。芽だしは良好であったが、越冬態勢を確保するに至らず、春のスタンドは、崩壊状況であった。
    播種割合も、アルファルファ「ケレス」:チモシー「ホライズン」=3:1であり、播種期遅れと、播種割合が、結果的にミスマッチし、鎮圧不足も足を引いていた。

    4月2日に、再度、ブリリオンによる播種が行われ、9月1日、シードマチックによる追播が実施されている。(平成22年春、アルファルファ「ケレス」の順調な越冬を確認)
    牧草地の造成も最初に手こずると、その後も上手に進まないことがある。G牧場もそのケースであった、北海道研究農場のご支援をいただき、やっと軌道に乗せることができた。

  7. 【今後の展望】

    この技術要素は、平成21年春より、北海道と雪印メグミルクグループとの包括連携協定の取組みテーマに採用されている。北海道における自給飼料生産強化の一環として、官民連携しての、一層の普及・促進が進行することになっている。

    実証圃場調査事業としても、10課題中の4課題を占めており、3年目もここに重点をおいた取り組みを展開することになる。

【IV】耐病性F1トウモロコシ『ビビッド』などの普及促進

  1. 【技術要素】

    ススモン病多発エリアでの高カロリー自給飼料の安定確保
  2. 【ビビッドの特性】

    (1)ススモン病抵抗性が極強 (2)耐倒伏性が極強 (3)雌穂は実入りが良く、TDN収量が高い、80日クラス
    ※雪印種苗(株)北海道研究農場では、育種母材・系統段階から、ススモン病の接種試験を重ねており、中でも『ビビッド』は抜群の抵抗性を示している。

  3. 【経過】

    初年目、大樹町 D牧場、とT牧場において、連作のため例年ススモン病が激発する圃場で、抵抗性品種『ビビッド』の栽培によって、病気を回避した高品質F1トウモロコシサイレージを調製することができた。
    特に、D牧場は、アルファルファ『ケレス』混播草地の造成にも取り組んでおり、今後、両者の組み合わせ給与によって、経営の改善をはかることを視野に入れている。

    No.10「新冠町(株)にいかっぷAS」では、40ヘクタール強のラッピングサイレージの調製・供給を進めている。ススモン病の発生も少なく、ニューデント105日、110日が栽培されているが、パイオニア系品種の罹病度が高まり、その品種間差、評価が開きつつある。

  4. 【汎用性】

    F1トウモロコシはTDNの自給力アップには最も適した作物と言え、畑作地帯における耕畜連携にも組み込みやすい作物であり、栽培の更なる拡大が期待されている。
    『ビビッド』のススモン病抵抗性は抜群であるが、ニューデントシリーズのラインナップは、いずれも実用程度の抵抗性は備えており、地域、作付期間に応じた品種の選択が可能となり、新冠町でも、高い評価が得られている。

  5. 【今後の展望】

    配合飼料価格の高騰⇒F1トウモロコシ栽培の取組み強化、この図式は定着を辿るものと想定される。
    今春は、スノーデント系の優れたススモン病抵抗性が評価され、40ヘクタールの全てで採用・栽培されるとの連絡を受けている。
    『ビビッド』を中心に、周辺クラス品種をもPRし、全道各地での更なる需要喚起へつながることを期待したい。

【V】冬作ライムギの導入(栽培)による、自給飼料作物の生産増強

  1. 【技術要素】

    ライムギ導入による、2年3作、自給飼料増産チャレンジ
  2. 【導入場面】

    網走・北見管内は畑作がメインであるが、限られた土地資源を活用した酪農経営も展開されている。2年3作による飼料増産を期待し、No.8「清里町、2牧場」が取り組んでいる。(平成21年秋、F1トウモロコシの収穫にて、2年3作の体系が完結、終了とした)

  3. 【技術体系】

    初年目 F1トウモロコシ栽培・収穫(9月下旬) →ライムギ播種(9月下旬~10月上旬)
    2年目 ライムギ栽培・収穫(6月上旬) →F1トウモロコシ播種・栽培(6月上旬)~
        →F1トウモロコシ収穫(10月中~下旬)
  4. 【問題点】

    積算温度条件が限られた北海道・当該エリアでは、(1)スピーディーな作業が要求されること (2)気象の年次変動による、収穫量・品質のブレが大きいこと、などが指摘できる。
    ライムギの導入が困難な場合は、イタリアンライグラスの代替も検討できる。

    写真-1 清里町 Y牧場ライムギ「キタミノリ」

  5. 【今後の展開】

    土地資源が少ないという制約のもとで、問題点で指摘したように、労働的にあわただしく、かつ気象条件に伴う不安定性がぬぐえないなど、難しい技術要素である。
    当該体系を導入するには、耕畜連携(畑酪連携)などの条件整備が必要となり、地域資源循環などの動向がかぎをにぎってくる。
    地球温暖化、耕畜連携、自給率向上など、フォーローの風がないでもないが、個別経営における有利性があるかどうかを、慎重に判断してゆくことが重要と思われる。

調査研究報告・提言へ戻る