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酪農現場の声

No.1 半歩先を行く行動展開を実施(香川県高松市 藤川 弘幸さん)  雪印乳業株式会社 酪農総合研究所 研究G 柳瀬 兼久

写真:藤川 弘幸さん

今年6月に農林水産省が公表した調査結果によると、昨年11月に本格施行した「家畜排せつ物法」<*1>の対応を余儀なくされた酪農家(乳牛を10頭以上飼養の酪農家が対象)は2万4,553戸。そのうち、すでに99.7%がその対応を終えているといいます。しかし、これは法の遵守が絡んだ結果であり、法が施行される以前から環境や地域住民への配慮により、率先して酪農家が施設整備をおこなったケースはあまり聞きませんでした。

今回ご紹介する香川県高松市にある藤川弘幸さん(59歳)の牧場は、古くから湯治場として知られる塩江温泉郷の近くにあり、しかも高松市民の水源地を担う内場池(内場ダム湖)の池畔に位置しているため、畜産公害は酪農経営の致命傷にもなりかねません。
その環境において藤川さんは、乳牛の排せつ物処理をきっかけに、自家生乳を使った乳製品の加工・販売、さらには牧場を消費者に開放し消費者交流をおこなうまで牧場を発展させていった酪農家です。

写真
池畔の牛舎とリゾートホテル群

酪農経営と周辺環境の変化
藤川さんが父親から牧場の経営を譲り受けた昭和45年当時は、8頭ほどの乳牛を飼養しながら、10haの山林で林業も営んでいました。その後に酪農の専業になり、昭和63年には経営を法人化するなどしながら、一時は飼養頭数が120頭を超えるまで牧場を発展させたといいます。
しかし、牧場の近くにある塩江温泉郷や内場池といった観光名所は、昭和終わりのバブル景気の影響からリゾートホテルやペンションが立ち並び、牛舎脇の道にも大型観光バスや観光客が往来しはじめたのです。しかも内場池は高松市民の水源地でもあるので、観光客が牧場に悪いイメージを持てば牧場の存続問題にもなりかねません。
当時、藤川さんは人に迷惑をかけたくないと考えながらも、その改善策がみつからず、何をどうすれば良いのかもわからない状況だったといいます。

土壌菌との出会い
そんな折、藤川さんは土壌菌を活用した排せつ物(尿)処理の勉強会に参加する機会を得ました。その理論は単に尿を処理(連続曝気)するだけではなく、その排水を乳牛の飲料水に利用すれば、乳牛の第一胃発酵が活性化し、飼料の消化吸収も促進させるというもの。最初は半信半疑だった藤川さんは、土壌菌による自然浄化理論を唱える理学博士・内水護氏の講演を聞き、その処理能力を確信したといいます。
そして藤川さんはこのシステムを導入するため、まず自己資金で小規模の排せつ物処理設備を作り、尿の処理能力を実証しました。そして、その結果をもとに県に働きかけることで、平成2年度香川県畜産資源化システムの第1号モデル事業として認定を受け、実用化を図ったのです。

土壌菌の効果とさらなるステップ
乳牛から出た尿(ふんは堆肥化し圃場に還元)に土壌菌処理を施すと、1週間ほどで牛舎のにおいがなくなり、数か月後には牛舎でほとんどハエを見なくなりました。しかも、1頭当たりの年間乳量が1,000kgほど増加する効果もあったといいます。しかし、藤川さんが一番驚いたのは、生乳の脂肪率や無脂固形分率などといった数値はさほど変化していないのに、明らかに以前より生乳の風味が増したことでした。
そこで藤川さんは、この優れた風味を生かした乳製品加工というさらなるステップを模索したのです。

息子たちの就農を機に
平成6年、藤川さんの長男が牧場を継ぐために会社を退職しました。しかし、当時は生乳生産が過剰のため、出荷制限が厳しく一人分の所得を増やすため生乳出荷量を増やせる状況ではありませんでした。
そこで乳製品加工を本格的に検討するため、全国各地の酪農家が営む乳製品加工・販売の現場を長男とともに視察したのです。その結果、当初考えたアイスクリーム製造は莫大な資金が必要だが、ソフトクリームならそれほど資金もかからないことがわかりました。当時、四国に酪農家直営のソフトクリーム販売はまだなく、またタイミングよく牧場の近くに道の駅が建設予定のため、そこでの販売を計画しました。
道の駅での販売が具体化しつつある頃、今度は次男が就農のため退職しました。息子2人の牧場入りにより、長男は会社勤めの営業経験を生かした販売担当、次男は乳牛飼養と乳製品製造の担当、藤川さんは牧場の総監督役となり、まもなくオープンする道の駅でのソフトクリーム販売に備えたのです。

一番手の優位性とマスコミの力
平成9年5月、「道の駅しおのえ」がオープンし、その観光物産センターでソフトクリームの販売をはじめました。藤川さんは週末になると道の駅に子牛を連れて行き、また、町主催のイベントには試飲牛乳を提供しながら、地域に密着した営業活動をおこないました。
当時、酪農家が自家生乳を製造販売する例は全国的にもめずらしかったため、マスコミもその活動に注目し、次々とその話題を取り上げました。そのため牧場の知名度は急速に広がり、ソフトクリーム販売は軌道に乗ったのです。その状況を藤川さんは、「何をやるにも一番手は注目され、マスコミも取り上げる。しかし二番手以降は関心が薄れ、マスコミも取り上げない。うちの知名度を広げてくれたのもマスコミ」と、一番手の優位性とマスコミの特徴と影響力について語ってくれました。

また、平成11年には「しおのえミルククラブ」を設立しました。これは藤川さんの念願であり、そしてソフトクリームを持ち帰りたいという観光客の希望を叶えるため、近隣酪農家らと結成したアイスクリーム製造の任意組合です。この組合のアイスクリーム製造工場では、地元で収穫した果実を使ってアイスクリームを作ることで、新たに町の特産品を作り出そうという構想がありました。これも地域ではじめての試みであり、そこにも「一番手」や「マスコミ」の効果を期待する藤川さんの戦術が生かされています。

消費者との交流
藤川さんが乳製品の製造・販売と同時に力を入れているのが、「消費者との交流」です。ソフトクリームの製造・販売と前後して「日本の牧場スタンプラリー」<*2>にエントリー、スタンプラリー終了後は「酪農教育ファーム認証牧場」<*3>として、地域住民や児童に牧場を開放しています。今では乳搾り、チーズ、バターそしてアイスクリーム作りなどの体験メニューも設定し、消費者交流を進めています。

藤川さんは、「牧場や自分が作った乳製品を通じて消費者と会話し、評価してもらうことはとても勉強になり、励みになり、そして勇気付けられる。この喜びは実際に交流を交わしてみなければわからない」と消費者との交流を交わさなければ感じることができない楽しさについて語ってくれました。

地図:藤川牧場

乳牛の排せつ物処理の成功をきっかけに始まった乳製品加工・販売は、今では5種類の製品を扱い、取引先も100か所を超えるまでに成長しています。消費者交流についても牧場の周辺を整備し、より身近で訪れやすい環境を提供しています。

取材の最後に藤川さんは、「"半歩先に出る心構え"が大切。一歩先に出るのはリスクが大きいが、半歩なら後の動きもわかり、一番手の優位性も保てる。そのためにはつねに情報をとりながら、"今、自分は何をするべきなのか"を考え、タイミングよく行動しなくてはならない。また、思い切りのよさも必要で、6割の可能性があれば努力次第で成功すると信じて行動することが勝算の秘訣」と持論を語ってくれました。
これから先、どのような"半歩先を行く行動展開"が見られるのか、目が離せない藤川牧場の取材でした。
(しおのえふじかわ牧場HP: http://www.fujifarm.com/

*1:正式名称は「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」。家畜排せつ物を適切に管理し、堆肥など有用な資源としての利用を促進することを目的に平成11年制定、平成16年11月より本格施行されました。

*2:主催/ミルククラブ、協賛/(社)中央酪農会議が企画した全国の牧場を巡るイベント。全国で300戸以上の酪農家がエントリーしました。

*3:酪農教育ファーム推進委員会が主体となり、「教育の場」としてふさわしい機能と環境を整備した牧場を認証牧場として認証し、生産者にも指導者としてふさわしい教育や指導を実施する活動で、平成17年4月現在174牧場が認証されています。