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酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.25-5 意見交換

【講演者】

志田 昌之 氏
一般社団法人 日本気象予報士会 北海道支部 副支部長 気象予報士
佐藤 尚親 氏
雪印種苗株式会社 営業本部 トータルサポート室 主 査
伊藤 正英 氏
JA東宗谷 経済部 営農サポート 考査役

【座長】

佐々木 理順
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 担当部長
酒谷  周平
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所


座長:  昨今、地球温暖化の影響と考えられる気候変動が世界各地で起きており、それは我が国も例外ではなく、過去に無い集中豪雨による災害が毎年各地で発生するようになった。本来、日本人は気候風土(四季の変化)の活用と調和によって農業を発展させてきた。しかし、異常気象や急激な気候変動は脅威をもたらし、我々酪農生産現場にも様々な影響を及ぼしている。
 気象条件に大きく依存する自給飼料生産では、災害リスクだけでなく、気温・日照時間・降水量の変化が生育・生理に及ぼす一次的(直接的)影響、それによる病虫害拡大のような二次的(間接的)な影響が懸念される。
 その影響や程度を的確に予測することは難しいが、長期的な自給飼料生産の方向性や短期的な気象変動への対応の検討を行ない、先手を打っていくことが重要である。自然に抗うことはできないが、自然に対する畏怖の念を忘れずにリスクを回避し、自然の恩恵を維持していくことが酪農の持続的な発展に結びつくものと考える。
 今回「気候変動の実態と将来」、「気候変動の自給飼料への影響と対応」、「気象データの高度な活用」について話題提供をしていただいた。これから、更に理解を深め、『気候変動に対応する自給飼料確保』によって今後の酪農経営向上への一助としていただくことを目的に、皆様との意見交換を進めて参りたいと思う。
 限られた時間だが、ご闊達なご質疑を宜しくお願いする。
 進め方については、まず講演をいただいた先生方から、それぞれの講演内容についてのアピールポイントを示していただき、内容整理の上、質問・意見をいただく、というように進めさせて頂きたい。

 まず志田先生からは、北海道におけるこれまでの気象の変化、将来予測と影響リスクについて説明をいただいた。精度の高まっている気象情報の活用方法についても示された。

志田先生:  地球温暖化については、若い頃は「暖かくなるなら良いのでは?」と思っていた程度だった。気象庁に入った後、情報を入手、世界中の研究成果を解釈する立場になる中で、コンピューターでのシミュレーションが、当たるのか?大丈夫なのか?という疑問を持った。
 専門家がやっていることは、過去100年のデータをコンピュータープログラムで再解析して、その結果が過去100年間の気温上昇を概ね表現していれば、そのプログラムでの将来予測も良しと判断するということ。気象を左右する分かり得る過去のデータを100年分投入し気候変化を再現する時、その過程には当然温室効果ガスの増加が含まれている。ところが、温室効果ガスが増えないと仮定した場合は、現在までの温度上昇を再現することはできない。温暖化の予測はここがスタートである。これまでの温度上昇を再現できるプログラムを使って今後100年間はどうなるだろうと考えている。世界中の専門家がスパコンを使ってやっているので、私は今後も間違いなく温暖化が進むと思っている。
 明日、明後日の天気予報は全く別の世界である。精度は上がっているものの、詳しい風の予想、空気中の水蒸気の量など全てを観測することは不可能。観測技術とコンピューターの計算精度の両方が少しずつ良くなっているので、天気予報の精度は少しずつ良くなり続けるだろうと思う。皆さんにはそのような内容を理解した上で使ってもらいたいし、疑問に思ったら遠慮せず気象台などに問い合わせていただきたい。
座長:  次に佐藤先生からは、自給飼料生産現場における気候変動による影響と対応策について、具体的・類型的に説明があった。その上で我々が現場で取り組むべきことを示してもらった。
佐藤先生:  私が言いたかったことは配布資料の28ページのまとめ(講演要旨のまとめ)に集約されている。相手が気象であるため、今日話をしたひとつひとつの対応策だけでは回避できたり、解決はしない。経営の中で全ての対応策はできない。そこで、やれる範囲でやれることをやる、一つで解決できなければ複数の保険をかけるということが必要。分かりやすい例が、配布資料33ページのガリの放置による農地(草地)の損失(スライド「ガリの放置による農地(草地)の損失」)。放置して浸食崖になってしまったら、それを直すのにいくら土木費用がかかるか分からない。小さな小川レベル程度の早い段階であれば、ディスクをかけて草を生やしておく段階であればコストは計算できるレベルである。どうにもならない状態になって対処するのではなく、発生始めの頃に想定した対処をしておくことが必要。今日の話の中には多くの技術パーツがあるが、全部話した訳でもない。それぞれの酪農家の地盤や持っている土地で条件が変わるので、それぞれにどれができるかをチョイスして早めに対処すれば、激甚災害は別として、少しでも回避できるのではないかと思っている。
座長:  最後に伊藤先生からは、我々が欲しいローカルでタイムリーな気象データが民間の情報サービスを使い入手し活用できるようになったが、その課題の一端と将来の可能性について、特に道内各地で悩まされている“海霧(ジリ)”の予報について、取り組みを紹介していただいた。
伊藤先生:  天気予報が当たるか当たらないかというのも大事だが、佐藤先生がおっしゃったように対処方法をどうするかが重要。我々は予報会社に様々なデータを送っている。例えば収穫終了時に空の写真を送るとか様々な情報を送って協力関係を作ってなければデータの有効利用もできないと思う。気象データをダウンロードしても数字だけ見ていては何も見えてこない。分析や見やすいようにしていけば良い予報ができるのではないかと思っている。佐藤先生の話しを聞いて「自分たちの畑をいつも見に来ているのではないか?」と思うほどであった。身近にこのような考え方を持った方がいることが宝だと思った。
座長:  以上 先生方の話を踏まえて質疑に参加願いたい。会場からの質問があるので質疑に入る。

《志田先生への質問》
質問: 今後、AI技術等で予報の精度はどのように変わっていくか。今よりも早めに予報の精度は上がってくるのか。
回答: AIについて詳しくはないが、聞くところによると、AIを取り込んで天気予報をしようとか、様々なデータを、AIを駆使して予報の精度向上につなげようとすることは、一部で取り組みが始まっている。予報官に代わってAIが予報を行うか?ということについては、そういうことを考えている人も中にはいると思うが、すぐに取って代わることはない。“早め早め”ということについては、今、気象庁では1週間先の天気予報をしているが、それは精度を維持するためであり、あくまでも信頼度の問題なので、今後、精度が上がってくれば10日先までの情報は出せる。
 “早め早め”の対応というのは自分自身の判断だと思う。普段から天気予報を利用していて自分の財産を守るために最低限やることや、何かあった場合に動けるように準備しておくといったようなことは自分自身の判断だと思う。
 質問表の中には台風情報の精度についての質問があったと思う。現在、台風は5日先まで予想しているが、徐々に誤差が少なくなり、一昨年では24時間後の台風中心の予想誤差は100q未満となっている。2日先では100q超、3日先では200q程度の誤差になる。誤差を少なくしようと努力はしているものの、これだけの誤差は仕方がない。台風の進路予想の誤差は気象庁HPにも掲載されておりグラフで見ることができる。
座長: 精度は確実に上がってきているが、情報をどのように解釈するかについて、我々も勉強しながら情報の中味を捉えていく必要があるということだと思う、ということで良いか。
回答: 僭越だが、利用者にも理解を求めたい。分かりやすく伝えるというのが本望だが、利用者も疑問を持って質問してもらうようにして利用者と提供者が信頼できて心が通い合うようにしていくと、より上手に利用できるようになると思っている。
質問: 次の質問に移る。資料21ページ(スライド「2019年8月31日15:00〜2019年8月31日17:20」)にある、去年夏の岩見沢や三笠で発生した局地的大雨の件で、この気圧配置と原因を教えてください。
回答: この時は北海道の上空に明瞭な低気圧があるのではなく、気圧の谷(低気圧)が北海道の北西側(日本海側)にある気圧配置だったと記憶している。そこに南西側から暖かい空気が流れ込んだ。「暖かく湿った水蒸気が流れ込む」、「上空に寒気を伴う低気圧」、「そのため大気の状態が不安定になる」という3つの要素が重なり、岩見沢や三笠の辺りで空気が集まりやすかったためと考えられる。大雨についてある程度予想はできるが、あれだけの雨が事前に何時間降るかというような予測はまだ難しい。あの辺りに雨が降るという予想は数時間前には予想していたが、それが警報クラスになるのかどうかというのはかなり難しかったと思われる。
質問: 志田先生に最後の質問。牛が排出するメタンガスによる温暖化への影響はどの程度あるか。
回答: 専門的で難しい質問である。知っている範囲でお答えする。メタンガスはCO2に比べはるかに温室効果の強いガスである。ただ、温室効果ガス全体に対する地球を暖める効果はCO2に比べるとまだ少ない。これから温暖化が進んでいき、特に北半球の高緯度で永久凍土や積雪が解けたりすると、いままで地中に留まっていたメタンガスが空中に放出され、それによって一段と温室効果が強まるのではないかと言われている。
座長: 非常に大きな話である。最近、某コーヒーショップが温暖化と係わりを持たせて、牛乳乳製品に代わり植物由来の物を使うことを表明されたことで畜産業界は辛いが、消費者の方々にも誤解の無いようにご理解をいただきたいと思う。


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