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No.25-2気候変動が自給飼料生産に及ぼす影響と栽培管理技術の対応 雪印種苗株式会社 営業本部 トータルサポート室 主 査  佐藤 尚親 氏

 2018年6月に環境省が「気候変動適応法」を公布し、同年12月に施行された。これは、気候変動影響の被害防止・軽減と同時に、国民生活の安定、社会・経済の健全な発展、自然環境の保全を図ろうとするものである。政府・研究機関・国民・事業者・地方公共団体がそれぞれ基本的な役割を持ち、連携して気候変動適応を推進することとなっている。

 これを受けて、北海道においても「気候変動の影響への 適応計画(2019年12月25日時点で素案)」が策定されており、農業分野においても、予想される影響や適応の取り組み内容等について記載がある。しかしながら、一般市民が気候変動の影響や取り組み内容の「個別具体的なイメージ」について共有しているかは疑問がある。

 そこで、酪農・畜産分野の自給飼料というカテゴリにおいて、個別具体的な事例と対応策について検討してみた。


 2017年3月に札幌管区気象台から北海道の気候変化 【第2版】が公表された。その中で、「降水量は長期的な変化傾向は見られないものの、最近では、平年を上回る年が続いている。また、1時間に30mm以上の激しい雨の年間発生回数が増加傾向である。」と報告されている。

 一方で、1990年 に気象庁は、「気温上昇に伴う蒸発散量の増加により、土壌の乾燥化・有機物の分解が増加して、地力と保水力の低下をもたらす。それに加えて対流性降雨の増大で土壌の浸食が進む。」と予測している。

 では、現在の実態はどうであろうか。2019年は関東・東北で大型の台風15号、19号が上陸して甚大な被害が発生した。2015年〜2018年は、北海道でも連続して台風が直撃し、または長雨等で、トウモロコシや牧草の生産調製に不安定な時期が続いた。と同時に、春先〜初夏に長い干ばつ期間が発生する傾向で、牧草1番草収量の減少や、チモシーの枯死、牧草やトウモロコシの発芽不良等の被害が発生している。

 対応策としては、チモシーに偏りすぎない牧草草種のリスク分散や、有機物の多い表土を大切にして、保水性を保つ留意が必要である。


 「激しい雨の発生回数が増加」する環境で、地表面に有機物が少ない土壌を露わにすると、土壌の透水性やじん性(ねばり強さ)、耐侵食性が低下して土壌流亡(エロージョン)が発生しやすくなる。土壌の有機物が少なく地力が低いと、牧草の発芽定着や生育が悪く、土壌流亡はより発生しやすい。深い耕起により、有機物の少ない心土を表面に出さないように留意が必要である。

 簡易更新法による植生改善は、土壌流亡の発生を防ぐ効果が期待できるが、傾斜が急な圃場では作溝法よりも、スパイクで播種床を確保する穿孔法が向いている。

 また、放牧地では牛道が発達して、ガリを形成している事例をよく見る。「激しい雨の発生回数が増加」する環境でガリを放置し続けると、浸食崖にまで発達することがあり、農地を失う場合がある。これでは持続的な農業とはいえない。ガリが発生したらできるだけ早く修復する配慮が必要となる。

 一方、「激しい雨の発生回数が増加」する環境では、農地の排水が追い付かず、滞水が発生しやすい。そのような環境では、有害なアルカロイドを産生するカヤツリグサ科の植物や、大量の種子で牧草を圧倒する「ヒエ」が増えてくる。放牧地においても泥寧化が進み、作業性や土地生産性は大幅に低下する。

 対策としては、明渠の整備が最も重要である。明渠を確保出来れば、暗渠やサブソイラ等で明渠に水を誘導すれば良い。機械的な排水のみによらず、アルファルファやアカクローバ等の直根を有するマメ科牧草を導入することも、排水改善に有効である。これらの直根は、水と空気を通すパイプとなり、土壌の物理性を改善する。


 牧草収穫時期が集中していると、コントラクターによる作業委託が増えている今日では、長雨の発生により、地域全体の牧草収穫が遅れる。牧草品種の早晩生を活用したり、出穂時期の異なる草種を導入したりすることで、収穫適期を分散させて、「調製した牧草サイレージの全てが品質不良」になることを避けたい。

 また、牧草播種時期においても、雑草の多発時期を避けるため、現在は8月〜9月上旬に集中しており、この時期に長雨が発生すると、播種限界時期までに播種できない場合が増えてきている。現地では、11月以降のフロストシードや、麦類同伴等による早春の播種で、播種時期を分散しようとする試みが進められている。


 トウモロコシは節間伸長時期を除き、それほど水を多く要求しない作物である。逆に根系に過剰な水があると、様々な障害や病害が発生する。トウモロコシは比較的高温を好むが、同時に干ばつや湿害のストレスがあると、様々な障害や病害が発生する。近年、生育の後期に、「激しい雨」と高温条件に晒されることで、「根腐病」が発生し、甚大な被害が発生するリスクが高くなっていると考えられる。と同時に、気象の「振れ幅」が大きくなっている傾向なので、「冷湿害」に対しても、油断がならない。

 北海道における台風直撃が増えていることは、トウモロコシの倒伏害リスクの増加に直結する。耐倒伏性品種の選択、適正な播種密度・播種時期・播種深度、適正な肥培管理、複数品種導入によるリスク分散等、備えは常に必要である。更に、排水改良や植物活性資材等も活用して「根はり」を良くすることで、倒伏の軽減を図りたい。


 最近の北海道ではpH4.8〜pH5.0前後の酸性雨が継続的に降っている。更に、気候変動により「平年を上回る」雨が降る。このことにより、土壌の酸性化が進むことは容易に想像できる。牧草地の土壌が酸性化すると、播種した牧草の発芽定着・初期生育が不良となり、植生改善が難しくなる。また、肥料の効果が低減し、牧草生育・収量が低減する。一方で、酸性土を好む強害雑草が侵入・拡大しやすくなり、牧草地の生産性はさらに低下する。日頃から草地土壌のpHを意識して、炭カルの散布について習慣付けしたい。


 春の気温が上昇することにより、発芽に今までよりも高い気温を求める、ソルガムやスーダングラス等の栽培安定性が期待できる。冬・春の気温が高くなると、ライムギ等の越冬性麦類の起生期が早くなり、生育期間を長く確保し、かつ早く収穫できる様になる。

 また、夏・秋の気温も上昇傾向の予測であり、このことは取り組みが進められつつある「実取りトウモロコシ」栽培や、麦類とトウモロコシの2毛作の栽培が安定し、収量も増えることが期待される。


 微妙な気温の上昇でも、今まで越冬・定着できなかった雑草や害虫が、越冬できるようになる事が予想される。ワルナスビやチカラシバは東北まで北上してきており、生産ほ場に侵入されると、防除が非常に難しい。害虫についても、一時の高温で爆発的に発生すると、対処が追い付かない場合が多い。


 冬の気温が上昇する傾向にあり、道東地域の土壌凍結深は変動幅を広げながらも、浅くなっている傾向にある。このことにより、道東では越冬性が不安定であった、ライグラス類が安定して栽培できるようになることが期待できる。


 さまざまな気象変動の予測報告では、温暖化により気象災害が増える一方で、北海道については農業の土地生産性が向上する(家畜生産性は暑熱で低下)、という報告もされている。農業における気象災害は「発生してから」の対処よりも、「発生することを想定した備えをする」事が最も重要である。本州では既に北海道よりも様々な気象変動影響が発生しており、情報を収集して「早めの備え」の参考にするべきである。

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