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酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.24-5 総合討議

【講演者】

森田 茂 氏
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 家畜管理・行動学研究室 教授
粕谷 悦子 氏
農研機構 畜産研究部門 畜産環境研究領域 飼育環境ユニット 上級研究員
佐坂 俊弘 氏
公益社団法人 北海道酪農検定検査協会 乳牛検定部 検定課 課長

【座長】

佐々木 理順
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 担当部長
野ア  則彦
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 課長


座長: それでは意見交換を始めます。
当シンポジウムは、一昨年から「酪農現場のカイゼンを考える」という大テーマのもと、生乳生産現場のロスを発見し、その対策を講じることで経営改善を図ることを目的として開催している。カイゼンシリーズ第3回目となる今回のテーマは『少額投資で生産性の向上を!』とした。
今日、本テーマに対し3題ご講演を頂いたが、一言で表せば乳牛の行動や生理を理解し、飼養環境を整え、適切なモニタリングと得られたデータの活用を高め、さらにそのデータ活用の面的拡大を図る、これが少額投資で生産性を上げる基本的手法の一つではないかと考えた。そのベクトルを我々が適切かつ明確に共有することが重要であり、これにより理論に裏打ちされた技術が現場での効率的な実践と波及につながるものと考える。
これらについてさらに理解を深め、皆様の今後の飼養管理・経営管理の向上への一助として頂くことを目的に、ご参加いただいた皆様との意見交換を進めたい。
限られた時間ではあるが、ご参加いただいた皆様のご闊達な質疑を宜しくお願いしたい。
まず三人の先生から講演内容を簡単にレビューして頂こうと思ったが、会場からかなり多くの質問票が寄せられたので、早速、質問への回答をお願いしたい。

《森田先生への質問》
質問: フリーバーン牛舎において子牛の事故を防止できる敷料の入れ方はあるか。また敷料を交換すると分娩が進むのはなぜか。
回答: 事故防止を考えるなら滑らない環境を作ることが大切で、湿気るような場所を作らないことが重要である。敷料交換と分娩促進の関係は認識を持ち得ないためコメントは差し控えたい。
質問: フリーストール牛舎で衛生的乳質を確保するために断尾は必要と考えるが、ストールの調整だけでは改善できず困っているという質問。またもう一人から断尾についての先生のお考えをお聞きしたいという質問も頂いた。
回答: 断尾した農場と断尾していない農場を何百ケ所も比較した調査においても断尾できれいになった例はない。もともと断尾は牛体をきれいにするためではなく、糞尿中に含まれる病気の伝染を防ぐために導入された。そういった病気が多発するオセアニア地方の放牧環境で、それを改善するために生まれた技術である。それがアメリカや日本に伝わったときに誤って引用された。2005年のカナダの実験で断尾しても牛体はきれいにならないという報告がなされている。そうするとフリーストール牛舎の衛生環境を保つには、牛床サイズを変更することはできないのでネックレールやブリスケットボードの位置の調整する程度しか方法はない。
しかし尾は牛が牛床に寝たときに糞尿溝や床の糞尿に付いて汚れるため、その場所が汚れていなければ良いという観点で飼養管理するのも1つの方法である。尾が糞に付くのが気になるのであれば、牛舎で発情や牛の様子を見に行くときにスコップで糞を20センチほど後にずらしたり、頻繁にスクレーパーを動かしたりすればよく、それほど手間ではない。「それはできない」とすべて否定的に捉えるのではなく、その農場に合わせて少し改善するだけでも状況は変わってくる。その改善方法は現場を見ながら支援者と相談しながら行なうことが良いと考える。
質問: スタンチョンとニューヨークタイストールで乳量に差が出たという研究結果はあるか。首を折り曲げた状態が牛にとってリラックスした姿勢と聞いたことがある。実際に乳量も差が出るのか。
回答: どのレベルの研究報告かはさておき繋留方法で乳量に差が出るという報告はある。今のところスタンチョンの方が悪者となっている。ただ正直に言って首が曲げられないというレベルで乳量に差が出るのは信じがたい。首が曲げられることによるリラックス効果や健康状態は長いスパンで見たときに差が出ることはあるかもしれないが、乳量に差が出るとすれば採食量の差や疾病などが理由なのではないかと考える。ただ、決してリラックスさせることを否定するつもりはなく、どちらかといえば行動制限をできるだけ無くすことが良い方向に向かうと考える。ただスタンチョンをニューヨークタイストールに変えれば確実に乳量が増えるということは無いであろう。
質問: 牛は地面に向かって飼料を摂取する性質があるとおっしゃっていたが、牛舎構造の都合上、上に餌箱(粗飼料)があるときの牛の行動はどうなるか。また採食量は低下したりするか。
回答: 現実的に採食量が減ることはほとんどないと思われるが、ムダな餌が相当出ると思われる。上にある餌を食べようとするとき牛は引っぱるしぐさをする。子牛の草架台を見ても台の下には大量の牧草が落ちている。よって給与したけどムダになってしまう餌が多い状態になるであろう。もし可能であれば少し頭が奥に入るような餌箱の設計をし、さらに柵を斜めに設置できれば牛が頭を巻いてから後に下がるので下に落とす餌の量は少なくなる。餌を食べる行動を良く見て、もう一工夫すると下に落ちてムダになる餌が減るであろう。
座長: 現在、北海道の乳検をみると牛群平均年齢は3歳10ケ月、平均産次2.6回となっている。長命連産を目指すとき、乳牛の行動から見てこれらを改善する余地はあるのかご意見をお聞きしたい。
回答: たくさんの酪農家を見てきたわけではないが、私が見た範囲でいうと初産牛への対応がカギを握ると思っている。初産牛は成長の途中でありながら食べるのは遅く、体が大きな経産牛と共に過ごさなければならない。二群飼養している牧場をみても分娩直後のフレッシュ牛群と泌乳中・後期の牛群に分けている場合が多い。この場合、初産牛の泌乳中・後期牛が年上の経産牛と同じグループにいるため明らかに餌が不足する。そのうえに餌槽に餌が24時間無い場合はさらに初産牛が必要とする餌の量が足りなくなる。このような理由から初産牛の泌乳量が少なくなり、さらには二産、三産へと進む牛が少ないのではないかと考える。よって初産牛に対しもっと配慮することで二産、三産への移行が多くなり、平均産次も自然に増えると思う。ほかにも長命連産に繋がる改善策はあると思うが、まずは初産に対する配慮をもう少し手厚くしてやるべきではないかと考えている。

《粕谷先生への質問》
質問: 長日効果で乳量増加や成長増進することはよくわかったが、免疫力向上に対する効果は見られないのか。現場経験から明るさが体細胞数低減に役立っているような気がするのだが。
回答: 私が調べた範囲ではそのような知見は得ていない。ただ、光が体内の様々な経路を通って細胞自体に影響を与えることがあるため、特定の免疫機能に良好な効果を与える可能性はあると思う。
座長: 長日と短日のリズムを保つことが健康に影響するとなれば、やはりそのことで免疫力や耐病性が向上すると考えられるが。
回答: 人間もしっかり食事を取り、睡眠を取ることが免疫力を下げない有効な手段であるのと同じで、牛に対してもリズムを乱さない照明管理をすることで、免疫力の向上とはいかないまでも免疫力を維持する、もしくは下げない効果があるのではないかということは一般論として言えると思う。
質問: 適切な明期管理は成長促進や乳量増加に効果があるとのことだがデメリットはないのか。
回答: 我々はその牛がどの成育ステージなのかによって必要とされる日長時間が変化すると考えている。酪農家によって飼養環境は様々だが、異なるステージの牛が近くにいる場合、隣の牛に不適切な光環境を与えてしまう心配がある。我々の試験場を例にとると、分娩する牛と生まれた子牛が同じ牛舎内にいるため、夜中に分娩が始まると隣のペンにいる子牛にも照明が当たってしまうため、子牛の成長ホルモンの分泌が乱れてしまう可能性がある。つまり飼養環境によってはそのようなデメリットを与えてしまうことも考えられる。
質問: 乾乳期の短日効果で次乳期の泌乳前期乳量が向上するという内容が興味深かったが、この効果は中・長期まで働かないのか。また同一個体にて乾乳期にも短日効果をもたらすことはできるか。
回答: 短日効果が中・長期的に持続することはない。要は乳腺を休ませる時期に都度短日処理を行なうことで次乳期の泌乳量を増加させる効果が現れるので、その都度処理をする必要がある。
座長: 泌乳期に対する長日効果も乾乳期に対する短日効果も、そのステージにあわせて適正に管理する必要があるという理解でよいか。
回答: おっしゃるとおりである。
質問: 夜間光暴露により成長ホルモンの分泌が抑制されるとのことだが、乱れたものが正常に戻るにはどのくらい期間を要するのか。
回答: 実験中につきデータがなく具体的にわかりかねるが、たぶんそれほど期間はかからないと思われる。今日の講演でリズムが乱れると成長に支障が出るという話をしたが、乱れた状態が続くことが良くないのか、あるいは一時的な乱れだけでも良くないのかという点についても不明である。ただ一回乱れたものを正常な明暗周期に戻すことでリズムは直に戻るものと考えている。
質問: 長日効果はかなり昔から知られていると思うが、実際に活用している農家は少ない印象がある。採用率はどの程度あるのか。また採用されない理由としてどのようなものがあるのか。
回答: 長日効果がどれくらい普及しているかはわかりかねる。しかし、些細な工夫でできる事例なので実際にそれを行なっている事例があっても話題にならないのかもしれない。
座長: 2回搾乳を例にすれば搾乳間隔はざっくり12時間となり、朝搾乳の前作業で牛舎に入る時間から夜搾乳が終わり牛舎の照明を消すまでの時間を考えると、ほぼ14〜15時間になると思われる。そうであれば光のコントロールは実施しやすいとも思えるが…。
回答: 作業のタイミングと照明時間の関係はあると思う。よって作業に併せて照明時間を長くすることは比較的実施しやすい。またタイマーで照明時間を設定することも実施しやすいが、反対に照明時間を短くするには工夫が必要となる。
座長: 3回搾乳やロボット搾乳で光コントロールの効果を取り入れたい場合は、また違った考え方やシステムの構築が必要になると思われる。
回答: おっしゃるとおりである。様々な飼養環境や使用方法があるので、その飼養方法にあったケースバイケースの照明を工夫する必要がある。

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