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No.24-2牛の行動を基に施設や飼養管理を見直す 〜牛も人も幸せに〜 酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 家畜管理・行動学研究室 教 授 森田 茂 氏


 家畜の要求を理解するのに、家畜行動の観察・解析はきめて有効な手段である。行動を直接観察することはもちろん、家畜が利用した施設や自身の体に残した痕跡を調べ、利用の仕方を類推したりする。

 家畜の状態把握に活用されつつある様々なセンサーを利用して、家畜から発せされるサインを読み取り、判りやすく表示したり、直接観察では困難な、日内パターンの変化を精度良く把握できる。さらに、搾乳された牛乳の成分から家畜の生理的状況を推測したり、家畜の体格変化などの情報をあわせれば、飼養管理の改善は確実なものとなる。

 家畜の要求を適切に判断して、それに応じた管理を組み立てるのが「精密酪農」(スマートファーミング)的手法である。一方で、環境変化の多い屋外の放牧地で、群飼養をするような、多様性に富んだ環境を家畜に提供し、何を選ぶかは家畜の選択にゆだねるといった飼養管理手法もある。どちらの管理手法を用いるにせよ、乳牛の行動を理解することは、家畜の状態確認と家畜に配慮した飼養管理のために必要となる。

 家畜の行動は、飼育環境改善に向けた重要な道具であり、管理者にとっての楽しみでもある。ときどき「行動を眺める」から、継続して「行動を観察して、評価する」へと進展すれば、飼養管理改善のためのPDCAサイクルは、継続的に動き出す。


 乳牛の休息姿勢は、横臥(後躯)と伏臥(前躯)の組み合わせで後躯片面への荷重が高い。このことから、同一側面を下にしたまま横臥持続できる時間は1〜2時間程度である。乳牛の1日当たりの横臥時間は平均12時間なので、少なくとも6回は起立・横臥動作を行うことになる。こうした特徴もあり、乳牛にとって快適な休息環境には、起立・横臥動作が容易で、横臥時に床が硬すぎないという2つのポイントがあげられる。

 乳牛は起立動作時に、前方に頭部を伸長し、両後肢を同時に伸ばし、前肢は左右片方ずつ、前方に踏み出しながら伸長させる。この動作様式が、最も「自然」であり、動作時間が最も短い。しかし、いかに「乳牛を配慮した飼養環境」であっても、この動作を繋ぎ飼い牛舎やフリーストール牛舎で実現させることはできない。このうち、繋ぎ飼い牛舎では前肢の伸長は、1番目の前肢から前方に踏み出すことは制限しなければならず、フリーストール牛舎では2番目に伸長する前肢は踏み出させないようにしなければならない。これは、牛舎の構造上および牛床の衛生上、不可欠な動作制限である。

 不可欠な制限の範囲を超えて、起立・横臥動作時の頭部伸長がうまくいかない乳牛や、繋ぎ飼い牛舎で起立動作の際に前肢を飼槽内に踏み込んでしまう乳牛を見ることも多い。飼槽への踏み込みは、乳牛起立時の前肢のすべりや、給与飼料の前肢による汚染などの原因となる。これらは、牛床利用の仕方(パターン)にも影響する。現代のスマホにはビデオカメラ機能があり、動作解析を行える入手が容易であるアプリも多い。スマホ世代でなくとも、牛の寝床の各所にある痕跡は、こうした不都合な状況の証拠になる。

 床の硬さを客観的に測定する装置が、酪農学園大高橋圭二氏により制作され、精力的に研究が行われた。牛床資材ごとの検討や、敷料の役割の解明などが明らかになり、休息環境の改善は急速に進展した。

 牛床内の構造物(ブリスケットボード・ネックレール・各種隔柵)施設や、牛床のサイズは、横臥位置や横臥時の姿勢を制御している。これらは排糞位置の制御を通じ、牛床の衛生的環境にも寄与している。適切でない牛床施設は、起立動作の困難さなどの不快さ以外にも、様々な影響を及ぼすことになる。断尾という乳牛身体の切断行為が、牛体の汚れや、乳房炎の発生、乳質改善には役立たないことは、すでに科学的に証明されている。意味のない身体損傷行為をやめることは、乳牛における飼養管理改善の出発点である。


 高い生産性が求められる家畜では、健康を維持し、生産量を向上させるため、摂食を阻害する要因をできるだけ排除したり、短い時間で多くの飼料を採食となるように飼養環境を整えることがある。動物にとって、行動の結果のみが重要なのではなく、行動発現自体も重要な意味を持つ。採食行動は、「栄養素を補給する」だけの行動ではなく、様々に付随する行為が発現できる時間である。

 牛には牛という種に特有の食物や、それを摂取する器官(口や舌)の形状や使い方があるから、管理者が行う飼料給与方法や乳牛が使う飼槽構造は、乳牛の特徴に配慮して計画され、実行される。これがうまくいっているのか、改善が必要なのかは、乳牛の生産性や、健康維持、さらに利用の方法(行動)により判断される。

 乳牛の採食行動は、「頭を下げて、舌を使い口腔に飼料を取り込み(喫食)、頭を上げて飼料を咀嚼・嚥下する」動作の連続である。舌を使うことから、地面に生える牧草は10〜15cmの高さが食べやすいようである。サイレージのような細断された飼料では、斜面形状があると口腔に取り込みやすい。また、混合した飼料から濃厚飼料を選別するため、飼料を攪拌したり撥ね上げたりする。

 こうした動作もあり、牛が採食可能な範囲の外に、飼料が移動する。この動作による飼料の移動を防止するため、飼槽構造を工夫することがある。また、管理者が範囲外に移動した飼料を、採食可能範囲内に戻す、餌寄せ作業を繰り返し行うことで対応することもある。給与した飼料の移動は、フラット飼槽で激しいことや、群飼養される乳牛では自由採食が基本であることから、こうした場合に、餌寄せ作業を自動化することも多い。

 採食行動を終日観察することは困難であるから、飼料給与を基点としたある時刻に、同時採食頭数を観察することで、牛群の日内パターンを推定したり、乳牛の体型上の変化(ボディコンディションスコア、ルーメンフィルスコア)から個体ごとの採食時間を類推したりすることがある。最近では、センサーを活用し採食パターンの把握や採食時間の記録が可能となっている。あわせて反芻センサーから、粗飼料採食の変化を類推することができる。家畜同士の社会的関係については、センサー開発は不十分で、家畜管理上の利用もはっきりとしていない。実際のところ、牛のことで、私たちの知っていることは僅かしかない。まさに、牛達の「知られざる生活」そのものである。


 「驚き」、「喜び」や「恐怖」などの感情的変化は、行動的、身体的あるいは生理的変化が併存することで、情動として示される。このうち「喜び」に関わる情動を快情動、「恐怖」などに関わるものを不快情動と呼び、大脳辺縁系扁桃体が深く関わっている。特に、快情動の仕組みは、脳内の報酬系の発見で明らかとなってきている。中脳腹側被蓋から発した神経核は、大脳辺縁部側坐核や前頭連合野あるいは視床下部などに伸び、ドーパミンを分泌する。側坐核などはこのドーパミンを受け取り、心地よさを感じる。

 私たちの生活でも「喜び」は、多くの行動発現の起点である。「恐怖」に基づく行動的習慣は「脅し」がなくなれば消えてしまうが、「喜び」経験は、報酬がなくとも「次こそ」といった期待を込めて、「ハマってしまう」、つまり依存的習慣になることが多い。こうした反応は乳牛でも認められ、個体差があり、「ハマル」レベルの違いも大きい。

 行動の発現や継続には、乳牛個体が「どう思うか」という情動が深くかかわっており、乳牛の自発的行動に基づく飼養管理システムでは、特に注目される。しかし、こうしたことへの科学的知見はそれほど多くなく、経験に基づく判断が主流である。牛のことを本当に理解するには、まだまだ研究が不足していることを実感する。


 家畜は約1万年前から私たちとの歩みを始めた。いずれの家畜も、それを越える数百万年の長い期間を、環境への適応のために費やしている。家畜化・選抜の過程で、さまざまな行動的変化が起こり、家畜としての飼育環境には制約があり、その結果、私たちが観察する家畜である牛には牛の、動物種としての行動的特殊性が存在する。

 本来、動物の行動は、「何によって行動が起こるか」(行動の原因)と「行動の結果がどう動物の生存や生殖に影響するか」(行動の機能)という面から解読する。このうち「行動の原因」は、時間尺度の違う3つの観点でとらえることができる。すなわち、@極めて短い 時間内での行動発現(摂食、休息あるいは繁殖)、A行動解発や学習などに代表される個体の成長を通じた行動の変容、さらにB世代を重ねた行動の進化である。「行動の機能」は、その行動の目的であり、適応的意義を表し、行動の原因(至近要因)とあわせ、ティンバーゲンの4つの課題と言われる。

 乳牛行動の観察事例を見たり、管理者の判断を聞く際には、その観察事例が4つの課題のいずれを特徴的に表現しているのか、管理者の判断は4つの課題のどれに重きを置いているのかといったように考えると、そうした判断と現実との一致が取りやすくなる。

 もっとも、「ティンバーゲン」には頓着せず、乳牛が様々行う行動や、様々に見せる表情を、ワクワクしながら愛でることはとても楽しく、「ハマ」ってしまう。継続的な観察は、「家畜の行動を基にした施設や飼養管理を見直す」極意である。つまり、楽しく牛を愛でることが、人も牛もHappyな飼養管理改善に向けた正しい方向であると、家畜管理・行動学研究室の卒業生を見ていて強く感じる。

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