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酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.20-5 総合討議

【シンポジスト(講演者)】

堂地  修 氏
酪農学園大学 農食環境学群 循環農学類 家畜繁殖学 教授
石井 三都夫 氏
株式会社 石井獣医サポートサービス 代表取締役
椋本 正寿 氏
北海道農政部 生産振興局技術普及課 畜産試験場技術普及室 上席普及指導員

【座長】

松田  徹
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 担当部長
柳瀬 兼久
雪印メグミルク株式会社 酪農総合研究所 リーダー


座長 
 今回、会場からのかなり多くの質問票が寄せられました。時間が許す限りご回答いただく方向で進めさせていただきたいと思います。

《堂地先生への質問》
Q: 雌雄選別されたメス精液は活力が少し弱くなると聞いているが、授精適期は通常の人工授精(以下、AI)と同じで良いか。
A: 雌雄選別精液は通常の精液と比べ精子数も少なく活力も違う。文献によると雌雄選別された精液は生体内で6時間ほどしか生存しないのではないかとの報告がある。したがって通常精液でのAI理論とは少し考え方を変えなければならない。通常精液は注入後10時間ほどかけて受精部位に到達し、一旦絨毛に捕捉され、そこで受精能を獲得することが報告されている。そして排卵時に放出される卵胞液がシグナルとなり精子は絨毛からリリースされ最終的な受精部位に到達する。よって排卵の10時間前には授精しなくてはならないというのが1980年代に主にイギリスでの研究をもとにした理論である。
一方、選別精液は生体内での生存時間が短いので通常精液より遅いタイミングで授精する必要がある。雌雄選別精液は精子数が少なく、生殖道内での生存時間の短さから受胎率は下がる傾向にあるが、品種によっては通常精液とあまり変わらないという報告もある。オランダ、ドイツ、スウェーデンなどの選別精液のデータをみると通常精液より若干劣る傾向にあるものの極端な差はみられない。
現状、精液の選別はDNAを染色し発光させ雌雄の篩い分けを行なっている。ところが先日、国際学会でアメリカ企業から新しい雌雄選別方法が進んでいるという話を聞いた。それはY精子もしくはX精子のみをレーザー光で退ける方法である。この方法は回収したい精子へのダメージが無いため受胎率の改善が期待される。世界各国の企業がこの新しい技術の開発に取組み、学会でも報告されているので、今後、選別精液の受胎率向上は十分に期待できる。

Q: NEB(=負のエネルギーバランス)の時期に発育した卵胞は、状態が悪く受胎率低下や空胎日数延長に繋がっているとのことだが、その期間に受精卵移植(以下、ET)を行なった場合、子宮環境は正常と仮定して、人工授精に比べて受胎率改善が望めるか? 実際の現場データなどはないか。
A: ボディコンディションスコアが下がっている状態で発育した卵胞にAIをしても受胎率は低いと思われる。その状態でETをする場合は、黄体の形成状態と卵胞内の卵子の品質次第で受胎率に差が出るであろう。黄体がしっかり形成されていれば受胎率はAIより高くなる。

Q: リピートブリーダーへの追い移植(AI+ET)で生まれた子牛はAI由来とET由来のどちらが多いか。それとも双子になるのか。
A: 我々の実験データでは、初期はET由来の子牛が多かったが、最近はAI由来の子牛が多い。これは実験条件によって差が出ると思われる。つまり、追い移植では体外受精卵を使用することが多く、その品質によるのではないかと考えている。また双子率は多くない。双子を目的に2卵移植すると、おおよそ4割程度の双子率となる。ちなみに双子の場合は単子より1週間から5日程度分娩が早くなるので注意が必要となる。 AI後のETでなぜ受胎率が向上するのかについて詳細はわからない。しかし予想されるメカニズムとしては、低品質の卵子が受精卵になっても分泌するインターフェロン・タウ(妊娠認識物質)の濃度が低いため、子宮は受精卵の存在を感知できないと考えられる。その状態でETによって受精卵が2つになれば、分泌される物質の濃度が上昇し受胎率向上につながるのではないかと私も論文で考察を報告させていただいた。実際、正常な牛に正常な受精卵を2個移植した場合の受胎率は非常に高くなる。過去に我々が実施した実験では9割に近い受胎率データも得られた。つまり、子宮が受精卵を認識する機会を多くすることで受胎率は上がる。

Q: 見落としによる初回授精日数の遅延はかなり重大な問題だと思う。その意味では検診を取り入れて、可能ならばホルモン誘起してでも80〜90日のうちに初回AIをすることはそれなりに効果があると思われるが、先生のご意見をお聞かせ頂きたく。
A: ホルモン処置により一定期間に種付けを目指すのは酪農経営の繁殖プログラム戦略としては有効と考える。ただし、そのときはある程度受胎率を目測しておくことが大切である。初回種付けが2割、3割でも良いのであれば使えると思う。つまりフレッシュチェックをいつ実施するかということになる。我々が調べたところ、日乳量40〜50kgのホルスタインの初回排卵は35〜40日が普通と思われるが、遅れる牛は60日にもなる。初回排卵が遅れる牛にホルモン処置をして繁殖プログラムを組んでも効果は低い。今は様々な発情・排卵の同期化プログラムがあるが、卵巣周期が機能していない状態で無理矢理実施してもなかなか効果は無いと理解した上で行なうべきであろう。

Q: アメリカで受胎率が上がり始めた時期とゲノミックが活用された時期にズレがあるのではないか。
A: アメリカのUSDAのデータを使っている『デイリーサイエンス』の論文をみると、繁殖形質にかかわる遺伝的改良の研究は2000年くらいからヨーロッパやアメリカで盛んに行なわれてきたことがわかる。その論文の内容からすると遺伝的改良は、例えば娘牛の受胎率などを調べていた。最近のゲノミック評価とその時代の遺伝的検討は内容が違うので混同しない方が良いと思う。最近の種牛選抜は、種牛側の子供たちの受胎率を考慮しているので次第に結果が明らかになるのではないだろうか。

Q: 酪農学園大では具体的にどのようなプログラムで繁殖成績を遺伝的に改良しようとしているのか。
A: 今年から育成牛のゲノミック評価をトライアルしているので、その結果を利用して繁殖性も考慮したなかで交配プログラムを作っていきたいと思っている。

《石井先生への質問》
Q: スライド「分娩環境が生産性に及ぼす影響」のなかで、衛生状態を“清潔”・“普通”・“汚染”に分けているが判断基準はどうしているのか。チェックリストのようなもので分別しているのか。
A: 結論から言えば主観的な判断が多い。ただ明らかに“汚い”というのは、牛が寝たときに必ず糞の汚れが付着するだろうし、“普通”は寝たときに糞の汚れが付くかもしれないが汚い場所は避けて寝ることができる、“綺麗”はどこに寝ても糞が付くことはないだろうという判断で行なっている。今後もこの基準でデータを作っていこうと思っている。

Q: 分娩3時間後に胎盤が排出されない場合はオキシトシンを打つとのことだが、エストラジオールを併用したほうがより胎盤が排出しやすくなるのではないか。
A: 私の場合は分娩後3時間ほどでオキシトシンを打つが、その頃は子宮内のオキシトシン受容体が活性化しているときである。もちろん最も活性するのは分娩時だが、その後3時間くらいはオキシトシン受容体の活性は持続するので、オキシトシンに対する反応は非常に良い。よってエストラジオールを併用しないでオキシトシンを単体で使用している。注射量はバイアル1本(50IU、5cc)使用している。その1時間後(分娩後4時間)でも胎盤が排出されない場合はもう1本打つことを勧めている。この1時間にも理由がある。注射を打って1時間くらいは、血中オキシトシン濃度は元のレベルに低下しないため、さらにオキシトシンを加えることで血中オキシトシン濃度を上げることができると考え2回打ちを勧めている。 オキシトシンを打つタイミングは分娩後3時間であるが、これにも理由がある。分娩から6時間を経過すると胎盤停滞の影響が強く出るため、できれば後産を6時間までに排出したいので逆算すると3時間となる。6時間を超えてオキシトシンを注射するとオキシトシンに対する子宮の反応が悪くなり後産が落ちないなど思わしくない結果になりやすい。よって分娩から3時間が勝負と考えている。

Q: 乾乳牛舎(フリーバーン)の床はマットや土などいろいろあると思うが、一番良い床は何か。
A: 乾乳牛はぜひ外のパドックで飼って欲しい。パドックがなければ作って欲しいとお願いしている。 今、私は低カルシウム血症の調査もしており、そのなかに潜在性低カルシウム血症がある。潜在性低カルシウム血症の定義は、分娩から3〜4日経過しても血中カルシウム濃度が8.6を下回る状態をいうが、大型農場の半数近い牛たちが潜在性低カルシウム血症の状態にある。その原因の1つは太陽光を遮る牛舎環境だと考えている。特に大型農場は通年舎飼の傾向が顕著である。カルシウムのコントロールに欠かせないのがビタミンDであり、そのビタミンDは日光を浴びることで活性化される。ビタミンDを活性化させるためにも、日光が当たるパドックを作ることを勧めている。また、床は滑らずに運動できる状況が望まれる。コンクリートの床ではゆっくり歩くことしかできない。長命のための活性物質は骨から分泌されるとの話もあるので、運動することで骨に刺激を与え、日光に当たることでビタミンDを活性化させることが大切だと思うので、ぜひパドックを作っていただきたい。
分娩房も同様で、歩きやすく、寝起きしやすい環境が望まれる。理想でいえばパドックのような場所で分娩させるのが良いかもしれないが、それが現実的に難しいとなればマットを敷くのも選択の1つになり、その場合はマットの上に大量の敷き料を入れてもらいたい。マットではない場合は火山灰をしっかり固めてからたくさんの敷き料を敷き詰めるのも良いと思う。コンクリートをむき出しにしないことがポイントと考える。

Q: 分娩時、へその緒が切れずに残るのは臍帯血が子牛に流れていくことなのか。詳しくお聞きしたい。
A: へその緒には臍静脈と2本の臍動脈がある。臍静脈は胎盤から子牛に流れる血液で、これは子牛に栄養や酸素を供給している。反対に子牛から流れ出て行くのが臍動脈で、これが先に切れると出血が起こりやすくなる。臍動脈が切れるとゴムのように縮み腹部に引っ込んでしまうため、腹部内での出血が続くことになる。分娩時に強い牽引をした子牛の血液を採取しヘマトクリット値を調べてみると、値が下がっていることが多く、このことから母牛側から入り込む血液は少なく、出血が多いことが窺われる。
また、産道で強い圧迫を受けた場合、子牛の血液循環は滞ってしまう。へその緒も同様で、産道の圧迫によって母牛側から供給される血液は滞るが、胎児からの動脈は多少圧迫されても動くため、胎児側の血液のみが減少し貧血になるというメカニズムであると考えている。

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