雪印メグミルクグループ 雪印メグミルク株式会社
酪農総合研究所 Research & Development Center For Dairy Farming

雪印メグミルクHOME > 酪農総合研究所 > 広報「酪総研」 時の話題

酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.22-4 「生乳生産のロス低減=安全でおいしい牛乳・乳製品〜ベストパフォーマンスの発揮を〜」 公益社団法人 北海道酪農検定検査協会 専務理事 熊野 康隆 氏

 


 近年の酪農家戸数、乳用牛頭数の減少は著しく、都府県ばかりでなく本道も同様である。一方、数戸の共同化や肉用牛農家から酪農への参入等による大規模酪農が見られる。
 そのような中、国あるいは道では酪肉近計画を策定し、「人、牛、飼料」の観点から施策を示している。乳用牛のベストパフォーマンス実現事業は、乳用牛が持つ本来の力を最大限発揮させるものである。


  乳牛から搾られた生乳は酪農家のバルククーラーに2日間貯乳され、生乳集荷担当者が乳温、アルコール、風味、抗生物質検査等を行い正常なものを集荷する。道内ではほぼ5戸の酪農家のバルク乳をタンクローリーに積み込み、乳業工場に搬入する。工場ではバルク乳受け入れ検査と同様の検査を行い、さらに細菌数、体細胞数、脂肪率や抗生物質の検査を行い、正常なものを買い入れする。また、用途に応じた厳しい基準が設けられ、例えば道外移出生乳では細菌数(低温性細菌など)の少ない生乳が求められる。当然、製品の賞味期限に相応する乳質も求められる。
 子牛にとって重要な栄養である生乳をヒトがもらっている。その生乳はヒトばかりではなく、当然細菌にとっても良い栄養となり、時間が経つほどに、また温度が高くなるほどに細菌数は増殖し、乳質を悪化させる。
 生乳の流れは乳用牛⇒バルククーラー⇒タンクローリー⇒ストレージタンク⇒牛乳・乳製品となることを考えると、すべての酪農家が良い生乳を出荷しなければならない。不良な生乳が混入しても薄められて分らなくなるから大丈夫ということではない。これらの生乳の特性を考慮すると、酪農家、生乳集荷担当者、乳業者、販売者及び関係者皆が消費者に対して次のような使命を負っている。“良いものを、適正な価格で、お客様が欲しい時に欲しい数量供給する”


  昭和30年、雪印乳業の北海道産の脱脂粉乳をもととしたスキムミルクで東京都内の学校給食で食中毒事件が発生した。原因は牛乳房炎起因菌の黄色ブドウ球菌(SA)が増殖しエンテロトキシンを脱脂粉乳中に残留したことが原因であった。そのことを契機として道を中心にホクレン、乳業者、大学等による北海道乳質改善協議会(道乳改)が発足し、乳房炎防除と良質乳生産に貢献し現在もその改善活動を行っている。同年、森永ヒ素ミルク中毒事件が発生し、原料となる生乳の細菌数が高いため酸度が上昇しタンパク質が不安定になるので中和剤として添加した薬剤にヒ素が混入したことによるものである。
 平成12年には雪印乳業の北海道産の脱脂粉乳を用いた加工乳等で食中毒事件が発生した。これは原料である生乳の品質はよかったものの、製造過程で停電になり、その間にSAが増殖してエンテロトキシンを産生し脱脂粉乳に残留したことが原因である。SA自体は殺菌で死滅しているがエンテロトキシンの毒性はそのまま残ったものである。
 この3例を見ても、原料となる生乳品質はいかに良くなければならないか、また乳業工場はいかに良い原料乳を良い製品にすべきかが重要である。“原料品質に勝る技術なし”


  この間、道乳改(事務局:ホクレン)は細菌数を少なくし乳房炎を防除する改善努力を行ってきた。特に、都府県酪農の衰退による道外移出生乳の増加と海外からの固形乳製品(バター等)が輸入されようとする中、国の戦略として液状乳製品(生クリーム、脱脂濃縮乳等)では輸入が難しいであろうと液状乳製品の増産が北海道に求められた。
 液状乳製品は美味しく加工しやすいというメリットがある一方、液状ゆえに賞味期限が短いというデメリットがある。これらを考えるときに、乳質特に細菌数が少ない生乳が求められることは当然である。また、体細胞数の少ない生乳も求められる。
 道乳改と指定団体ホクレンが行った特筆すべき改善のための事業として、平成9〜10年に「生菌数削減2ヵ年運動」を行い、細菌数1万/ml以下を目標として取組み、合乳検査(タンクローリー乳)でほほ99%を達成している。また、平成15〜16年には「体細胞数削減2ヵ年運動」を行い、乳房炎防除対策に努めた。
 さらに、全国に先駆け全酪農家のバルククーラーに自記乳温記録計を設置し、細菌数の増加防止と安全を確認できる体制を作った。また、生乳集荷担当者はハンディーターミナル(PDA)でバルククーラーの乳量と乳温を北海道酪農検定検査協会(北酪検)等にデータ転送しホクレンにすべてデータ蓄積され、一旦事故があった場合トレースできるシステムとなっている。
 また、抗菌性物質残留検査にはタンクローリー単位で迅速に検査できるチャーム法を採用して体制の整備を行い、さらにミルカー点検・整備、搾乳手技の徹底やポジティブリスト制度の遵守等に努めたことは大いに評価される。生乳集荷担当者研修やミルカー点検技術者養成研修を合わせて実施している(北酪検では生乳取扱者技術認定講習や牛群検定指導士認定講習実施)。


 ここでは乳房炎に関して生乳のロスを考えてみたい。良い生乳を生産しようとする酪農家の努力はかたやで体細胞数の高い生乳(乳房炎乳)を廃棄することにもなるであろう。リニアスコア(LS)5以上でおおよそ体細胞数30万/ml以上であり、道内乳検データでは頭数比で約16%である。そのすべてが廃棄されるものではないが、例えば3%の生乳が廃棄されているとすると約10万tに相当する。これは酪農家にとっては“見える”生乳ロスであろう。しかしながら、LS3〜4(体細胞数7.1万〜28.2万/ml)での“見えない”生乳ロスとして約3割の頭数がいることも知っておく必要があろう。
 乳房炎防除対策は、飼養管理、搾乳手技、ミルカー、暑熱対策等々すべきことはいっぱいあり、「さて、どうしたものか?」と思われるが、JA・普及センターなどの関係者の支援あるいはコンサルタントに委託して改善すると、今まで以上に乳は出るし捨てる生乳も少なくなった。さらに搾乳作業も“楽”になったとの声も聞かれる。“実行している酪農家はすぐ隣にいる”


 バター不足が問題となっているが、それは液状乳製品(生クリームほか)が美味しく加工しやすいことで徐々にユーザーの需要が増し、現状では道内の固形乳製品向け生乳とほぼ同量になっているからである。スイーツ等への需要増加が全体のパイを増加した一方、国内の生乳生産が減少することによりバター不足という事態になったものである。
 国あるいは道ではベストパフォーマンス実現事業(BP)を立ち上げて、前述したように乳用牛の持つ能力を最大限発揮させようとする取り組みである。
 国内の乳用牛の遺伝的改良は進んでいるのに1頭当たりの生産乳量の増加はそれに見合うほどでないと言われ、その要因としては気候、飼料、各種技術等々の環境要因が追いついていないとも指摘されている。これはすべての酪農家に当たるものとは思われないが、今一度乳用牛のBPを考えてみるときであろうと思う。
 ①牧草地に雑草や裸地が多いとの視点から植生改善に取り組む、②後継牛不足への対応として成牛の疾病・死廃防止対策(長命連産性)や分娩時の子牛死廃防止に取り組む、③ゲノミック評価や性選別精液という新しい技術を取り入れながら、乳検・NOSAIデータから問題点を把握し改善に取り組むことが重要である。成果が出るまでには3年以上の時間はかかるものと思われるが、将来の我が国酪農にとって必要なことであると考える。
 これらを推進するためには、今取り組まれている畜産クラスターのメンバーが情報、認識を共有しながら、取り進めていくことが肝要である。
 最後に、BP実現のためには、どうしてもデータが必要である。特に、牛群検定に係るデータは従来の数値ばかりの検定成績表から、”視覚化(グラフ化)”した牛群検定WebシステムDL( 『ご利用ガイド』はコチラ)を活用していただきたい。我が国の牛群検定加入率は50.7%とデンマーク(92.0%)やオランダ(88.6%)などから見ると低く、都府県においてはそれぞれ事情があると思われるが、加入率の向上でなく加入戸数の増加に努めていく必要があろう。牛群検定に加入する酪農家が後代検定事業(国産種雄牛作出)も担っているが、酪農家が減少し、牛群検定農家が減少する中、後代検定事業についても協力度合いが低下しており、今一度検討しなければならない重要な問題と考える。

No.22 目次ページへ