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No.22-2「自給飼料生産利用における損失(ロス)の低減」雪印種苗株式会社 トータルサポート室 主事 佐藤 尚親 氏

 北海道農業生産技術体系(第4版:北海道農政部、2013.3)では、粗飼料の利用率算出基礎として、乾物回収率を乾草で78%、中水分牧草サイレージおよびサイレージ用とうもろこしで87%、放牧草で65%としている。これらは収穫作業上の収量損失(以下ロス)割合を表している。しかし実際の現場では、栽培段階で、収穫作業ロス割合を乗じる元の収量・栄養収量・生産コスト自体に大きくロスが発生している。
 例えば、北海道施肥標準では、基準(目標)収量を、牧草で4.5〜5.0t/10a、飼料用とうもろこしで5.5〜6.0t/10a程度に設定し、基準(目標)収量が生産できる施肥量を示している。また、北海道農業生産技術体系においても算定基礎収量を、牧草で4.0t/10a、飼料用とうもろこしで5.3 t/10a程度に設定している。しかし実際の牧草収量は、直近の5ヶ年(H22-H26)平均で3.3t/10aと少なく、土地生産性のポテンシャルレベルと乖離が認められる。牧草においては、基本的な生産(調製)段階において、様々なロスが発生していることが推察される。一方、飼料用とうもろこしは、直近の5ヶ年(H22-H26)平均で5.5t/10aと概ね基準(目標)収量や算定基礎収量と同程度である。飼料用とうもろこしにおいては、気象災害・障害かトラブルによる、極端な収量減に備えることが重要であることが推察される。
 そこで、草地土壌、草地植生(ここでは草種割合を現す)管理、飼料用とうもろこし栽培、サイレージ・TMR調製利用の4つのカテゴリについて、ロスの実態・事例を紹介する。

 


  草地土壌の物理性については、特に重粘土壌環境において、作土のち密度(=硬さ)が高いと、牧草生育が著しく低下し、牧草収量としてのロスが発生する。サブソイラ等を用いた物理性改善が効果的である。草地土壌の化学性については、土壌pHが低いと草地更新直後およびその後まで牧草収量のロスを招く。炭カル散布が重要であることがわかる。
 草地土壌では、リン酸が蓄積している場合が多く、更新や維持段階において、土壌の分析をして肥料費を節減することができる。また、ふん尿散布に伴う減肥可能量が示されており、肥料費を節減することができる。しかし、過剰に散布すると草地の植生が悪化(ロス)するので、注意が必要である。
 施肥のタイミングも重要である。春の施肥が遅れると1番草収量が減少し、さらに、1番草刈り取り後の施肥時期が遅れると2番草収量が減少し、収量ロスが発生する。また、放牧地では1年分の肥料を早春に一度に施用すると、スプリングフラッシュで伸びすぎ、踏み倒しが発生する。掃除刈と搬出作業も発生し、8月以降の放牧草不足というロスを招く。スプリングフラッシュ後に追肥をするか、複数回に分施すると良い。マメ科牧草の導入は、窒素で5〜10kg/10aの肥料(肥料費)節減が可能であるに留まらず、収量の増加や濃厚飼料の節減にも貢献する。さらに、アカクローバやアルファルファは直根を有し、土壌の物理性や通気・排水性に貢献する。


 草地の植生が悪化すると、濃厚飼料の購入費用分で経営的にロスが生じることが試算されている。草種別には、シバムギはチモシーに比べて収量が少なく、ギシギシは栄養価が低いのみではなく牧草地に裸地を作るので牧草収量が低下する。リードカナリーグラスは収量が多いが、乳牛の乾物摂取量および産乳量を減らし、経営的にロスを引き起こす。近年はメドウフォックステイルやハルガヤ等、防除が難しい雑草が侵入・拡大し、チモシー等の牧草が衰退しつつある。これらの問題の対応策の一つとして、オーチャードグラスやペレニアルライグラス等、生育が早く競合力の強い牧草の作付け拡大を勧めている。
 不適切なタイミングの収穫や肥培管理(作業機械の乗り入れ)も草地の植生を悪化させる。遅いタイミングの施用作業や、降雨後に基盤が軟らかい時の作業機械乗り入れにより草地植生は早く悪化する。また、更新初年目・翌年の収穫時には10tダンプの乗り入れは避け、テッピングワゴンを活用するのが望ましい。アルファルファ草地への作業機械の乗り入れは、特に慎重な対応が必要である。スラリー散布は植生への影響が大きく、草地更新後、播種〜翌年の1番草刈取り後のスラリー散布は避け、経年草地においても早春は5月中旬まで散布し、再生草には最終番草を除き、刈取り後10日以内に散布する必要がある。
 北海道における牧草地では経年利用するため、雑草による植生悪化の他に、冬枯れや大量降雨による滞水・冠水、干ばつ等の気象災害、鳥獣害や病虫害等様々な自然のトラブルが発生する場合もある。大規模な牧草枯死、植生崩壊は簡易更新、完全更新で修復する。近年、草地修復のための種々のマニュアルが策定されている。
 近年は気象の変動が激しく、長雨により牧草収穫や播種が出来ないトラブルが起きている。一定割合の3回刈り草種の導入や、播種時期が集中している時期を避けた播種方法を導入し、天候不順に起因する作業遅延による生産ロスに対して、リスク分散を勧めている。
 また、牧草収穫を適期に行うことで、自給粗飼料の利用ロスを防ぐべきである。


 飼料用とうもろこし栽培では、基肥に窒素を8〜10kg/10a施用し、残り(4〜6kg/10a)を4〜7葉期までに分施する施肥標準となっている。しかし、追肥を行わず、土地面積当たりの収量をロスしている営農者は多い。
 また、播種・施肥をコントラクターに委託し、播種や施肥の精度を確認しないことによる栽培トラブルにより、土地面積当たりの収量をロスする事例もよく見かける。この様なことは、収穫の場面でも認められ、コーンクラッシャのローラ幅の調整が不十分で、とうもろこし子実の破砕が不十分になり、乳牛のデンプン利用でロスが発生することがある。
 近年、台風等による折損・倒伏、冷湿害、薬害、虫害、鳥・獣害、病害など、飼料用とうもろこし栽培において様々なトラブルが予想しない場所・タイミングで発生している。近年および今後の気象を考えると、トラブルを未然に想定して準備し、いずれのトラブルが発生してもロスを最小限に防ぐ対応・対策をとる必要がある。


  せっかく収穫まで辿り着いた材料が、サイレージ調製で失敗すると、それまでの努力が台無しになる。サイレージ調製におけるロス低減のポイントは、原料草・牧草糖含量、水分含量、乳酸菌数・種類、乾物密度・踏圧、異物混入防止、密封である。これらのポイントについて基本技術を励行して、バンカーサイロ・スタックサイロいずれにおいても、Vスコア90以上の良質なサイレージを安定して調製したい。
 また、サイレージおよびTMRの二次発酵や給餌ロスを防止し、土から始まり牛の口まで、少しでも多くの自給粗飼料を採食させるよう努めたい。


  自給飼料生産のロス、生産費用ロスを減らすためには、基本技術の励行(積み重ね、反復)が最も重要と考えられる。「土・草(・エサ)」の基本技術は、過去の膨大な蓄積があるが、ロスを減らす観点からは体系的に整理されていない。
 一方、現場では、経験・知識の豊富なベテラン生産者や技術者が現役引退していく中、新たな世代への技術伝承が不十分な場面によく出くわす。さらに、コントラクターに作業委託する環境になり、自給飼料生産調製作業の全てについて、現場で確認できない場合がある。
 これらの問題解決のために、生産者・技術者・コントラクターオペレータ等が共通で認識するべき、自給飼料生産利用のロス低減のための項目・技術内容について、「技術(チェック)リスト」化を試みてはどうか考えている。また、自給飼料生産利用のみではなく、家畜生産や酪農経営全体についても同様の試みができないか、経営「実証農家」調査研究事業などを通して検討したい。

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