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No.17 平成23年度酪総研シンポジウム「牛乳・乳製品の機能性・おいしさを科学する」雪印メグミルク株式会社ミルクサイエンス研究所 主事 堂迫 俊一

はじめに
 私たちは何気なく牛乳を美味しく飲んでいるが、よく考えてみるとミルクは解らない事だらけで不思議な事が沢山ある。この不思議な事を突き詰めて考えると生命そのものに突き当たる場合もある。

 牛乳から脂肪を取ると脱脂乳になり、脱脂乳をpH4.6にするとカゼインとホエイに分かれる。このカゼインにはαs1、αs2、β、κの4種類がある。 一方、ホエイの中には主にホエイタンパク質と乳糖がある。後はカルシウムとリンで、これは牛乳の中に豊富に含まれている。更にホエイタンパク質にはβラクトグロブリン(β-Lg)、乳糖の合成に関連するαラクトアルブミン(α-La)、他にも免疫グロブリン(IgG)、牛の血清アルブミン(BSA)、ラクトフェリン(Lf)など多くの機能性に富んだタンパク質が沢山入っている。今回はこの内からカゼイン、ホエイタンパク質、乳糖、カルシウム、リンを中心にお話する。

1.牛乳はなぜ白いのか?
 まず牛乳は何故白いのかについてお話します。皆さん普段飲んでいる牛乳は白いのが当たり前と思っている方が大半ですが、この牛乳が白い事は非常に意味が深い話となっています。

 何故白いかと言うと、電子顕微鏡で脱脂乳を見ると、黒いツブツブが沢山見えます。 この黒い粒子の事をカゼインミセルといっている。この大きさはバラツキがあるものの、40〜600nm(ナノメーター)のコロイド粒子である。(ナノメーターとは百万分の一ミリメーターの事)この粒子に光が当たると乱反射し、この為に白く見える。即ち、カゼインミセルはコロイド粒子でこのコロイドに光が当たって、乱反射する。この現象をチンダル現象といい、高校の頃の化学の教科書に出て来る言葉である。ここで問題は何故カゼインはこの様なツブツブの粒子となっているのか、ここに奥の深い訳がある。もう1つの神秘は、水に溶けないリン酸カルシウムをミルクは如何に大量に供給しているのかである。ミルクの中にはカルシウムやリンが豊富に含まれている事は皆さん良くご承知の通りで、このリン酸カルシウムは骨や歯の主要成分であり、また生命の維持にこのカルシウムやリンは不可欠である。ところが中性付近ではこのリン酸カルシウムは殆んど水に溶けない。もし、これが簡単に水に溶けたら我々は骨無し動物になってしまう。私が子供の頃は、宇宙人は蛸みたいな生物の漫画があったが、無重力の宇宙空間に長期間滞在すると、骨や筋肉が弱ってしまう。宇宙飛行士の古川さんが宇宙から帰還した時に1人では歩けない状態になっていたのは良く覚えておられる通りです。

 このリン酸カルシウムが殆んど水に溶けないのは、コップの中に水を入れてその中に砂が入っている様な状態で、この状態では牛の乳腺が詰まり子供にミルクを与える事が出来ない事になる。したがって、このリン酸カルシウムを大量にかつ安定に供給するシステムを生物が作り出し、哺乳類が誕生して今日に至っている。このリン酸カルシウムを安定供給する仕組みとして、このカゼインミセルの中にリン酸カルシウムを取り込むという方法を考え出した。これは生物として偉大な、革命的な発明であった。この様に、カゼインミセルはミルクの中で極めて大事な存在である。

 この様にミセルの内側にリン酸カルシウムを大量に包み込んでいます。この為に水に溶けないリン酸カルシウムを子供に与える事が出来ている。このミセルの表面には、κカゼインが比較的多く分布している。また、牛乳からミネラルを除く(脱塩)か、或いはpHを5.5以下にするとこのリン酸カルシウムは溶け出して、ミセルがバラバラに分解し、より小さな集合体(約20ナノメーター)となる。この小さな集合体の事をサブミセルと呼ぶ場合がある。この状態となると牛乳の白い色が消え、ホエイ色の黄緑色に変わってくる。この様に哺乳類にとって大切なカゼインミセルであるが故に、1970年頃から多くの研究者がこのミセルについて研究を行なっている。

 ここでそのミセルの代表的な考え方を二つ紹介する。1つは、「サブミセルモデル」というもので、サブミセルはこの図ではドーナッツ型に見えるが、実際には小球形です。サブミセルモデルではサブミセルが集まってミセルを構成しているという考え方であり、その集合体の内部が疎水的な領域となっており、外側が親水的な性質を持っている。このモデルではミセルの外側にκカゼインを多く含有するサブミセルが分布し、内側にはκカゼインをあまり含まないサブミセルがあってこの大きなミセルを構成している。このサブミセル間にリン酸カルシウム(CP)が存在するモデルとなっている。このCPの構造モデルに水酸化カルシウムが付くとハイドロキシアパタイトになる。

 もう1つの考え方は、リン酸カルシウムの「ナノクラスターモデル」と言われているもので、ナノクラスターとはリン酸カルシウムの小さな凝集体と考えられている。このモデルでは中心がリン酸カルシウムのナノクラスターといわれるもので、その周りにカゼインがヒゲ状となっている。このモデルではサブミセルは持っていない。その後多くの研究者がこのカゼインミセルについて様々なモデルを提唱しているが、これらは上記の2つのモデルの派生的な改良型となっている。

 このカゼインミセルについて具体的に視覚化する様々な写真が提出されており、これが多くのモデルが提唱される原因ともなっている。1つは、弊社にてイオンスパッタリング法で電子顕微鏡撮影したもので、岩状のサブミセル様形状が写っている。一方、もう1つのクライオTEM法による電子顕微鏡写真では前者の様な岩状形状は写っておらず、全体が一様均一にモヤとした形状となっている。この写真はナノクラスターモデルの1つの根拠となっている。もう1つの写真は、弊社が2010年に発表したもので、原子間力顕微鏡を使って観察した。カゼインミセルは多くの粒子の集合体として見えるが、その粒子間には比較的大きな隙間がある。これらはどれが本当のカゼインミセルを表しているのかは不明であるが、多くの観察結果が存在する事が、多くのカゼインミセルモデルが提案される基になっている。

 他にも多くの物理化学的手法にてこのカゼインミセルの解析が行なわれているが、このモデルの真偽に関しては依然として決着していない 。

2.チーズ作りとカゼインミセル
 このカゼインミセルを脱塩操作するとミセル粒子が小さくなり、pHを中性付近から酸性に下げるとpH5.3付近でカゼインミセル中のリンが溶出される。このリン酸カルシウムはカゼインミセルを構成する骨格をなしている事からこれらの操作によりミセル構造が破壊される事を示している。

 一方、カゼインの等電点が4.6であるのでこのpHでゼータ電位を測定するとプラスマイナス零の値となり、カゼインの沈殿が観察される。ところが、このカゼインミセルのゼータ電位測定では、pH5.3付近でも零となり、カゼインミセルの水和性が高まる現象が観察されている。

 この現象はチーズ製造での「パスタフィラータ製法」と関連している。このパスタフィラータ製法とは、モッツアレラチーズの作り方、即ちpH5.2から5.4位の間で60℃のお湯に入れて練って引っ張る操作を繰り返す製法である。弊社の「さけるチーズ」も基本的にはこのパスタフィラータ製法に基づいている。この操作の結果、チーズの組織が繊維状となりこれがさけるチーズの特徴となっている。この製法はこれまでに示したカゼインミセルの諸性質と深く係わっている。この詳細については未だ解明されていない点が多いが、この研究が進むとチーズ製造にて多くの改良がなされると期待されている。
さて、チーズ製造で、原料乳の加熱が過ぎると良いチーズが出来ない事は良く知られている。
原料乳の加熱温度が高すぎるとカードが良好に出来ない、特に80℃を越えるとカード生成不良となる。
この原因の詳細については、未だ明確には解明されていない。 この原料乳加熱では、ホエイ中のβラクトグロブリンがカゼインミセルと結合してレンネットとの反応が起こり難くなっているとの考え方がある。実際に、カゼインミセルをβラクトグロブリンの非存在での加熱状態を写した写真では、カゼインミセルが連なったゲル構造が認められる。

一方、βラクトグロブリンの存在下で過熱した写真ではミセル上に微粒子様に見えるβラクトグロブリンが存在しており、このためレンネットの反応が妨げられていると解釈できる。また、この加熱、未加熱のカゼインミセルのレンネット酵素との反応をGMP(κカゼイングリコマクロペプチド)の遊離や形成カード硬度を観察すると、この加熱、未加熱ではカード形成時間や硬度に大きな差が認められるが、一方酵素反応で遊離されるGMPは殆んど差異が認められない。この現象の解明にはカゼインミセルの構造や性質を更に詳細に研究する事が必要である。もし、この現象が解明されると、高温殺菌原料乳を使用したチーズ製造が可能になり、また殺菌温度を変える事で様々な性質のチーズを作る事が出来るのではと期待されている。

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