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酪農総合研究所

広報「酪総研」

技術・経営情報

No.8 酪農経営における黒毛和種体外受精卵の活用 (社)家畜改良事業団 家畜バイテクセンター 次長 浜野 晴三

 近年の酪農経営を取り巻く環境は、生乳の生産調整の影響や飼料価格の高騰などがあって悪化していると言わざるを得ない。一方、黒毛和種牛の飼養頭数も徐々に減少を辿っており、国策として酪農家の力を借りて黒毛和種牛の増産に取り組む施策が行われている。
 (社)家畜改良事業団では、平成3年度から黒毛和種体外受精卵の生産供給による子牛生産事業に着手して以来、体外受精技術を利用した黒毛和種肥育素牛の生産振興に取り組んできた。

体外受精卵の生産
 体外受精卵の材料となる黒毛和種の卵巣は、東京都中央卸売市場食肉市場および神戸市中央卸売市場西部市場の協力を得て、出荷された黒毛和種雌牛から採取している。さらに、家畜市場ならびに産肉能力の評価が秀でている(社)家畜改良事業団の検定済種雄牛の精液を用いて体外受精卵を生産している。
 上述の食肉市場に出荷される雌牛のほぼ総ては肥育牛であり、子牛登記しかされていない。(社)全国和牛登録協会の登録規定では、子牛登記しか有さない雌が生産した子牛は登記の対象とならないことから、当団が生産した体外受精卵を移植して得た子牛も子牛登記の対象とならないが、卵巣採取の条件(個体識別番号と子牛登記書等とを照合して品種確認を行う)を整備したことから、当団の体外受精卵の品種は黒毛和種と明記している。

体外受精卵の流通
 体外受精卵は、(1)凍結保存胚(10%グリセロールおよび0.25Mシュクロースを用いたダイレクト法により凍結保存)ならびに(2)新鮮胚(細胞培養輸送器(富士平工業(株))を用いて宅配便により輸送)の2通りの方法で流通している。年間の総移植頭数のおよそ半数が、新鮮胚による移植である。

酪農経営での利用形態
 (社)家畜改良事業団が供給する体外受精卵の約95%は、酪農家が飼養する乳牛を受卵牛として移植されている。産子の利用方向は農家の自由意志に委ねているが、家畜市場で取引する型と一貫生産農家(あるいは地域一貫生産)で利用する型に二分化される。
 圧倒的に多い事例は家畜市場での子牛販売で、約2〜3ヶ月齢のスモールとして販売されることが特徴である。移植地が選択する体外受精卵の種類(種雄牛の違い)により、各家畜市場に出荷される産子の構成は異なっており、販売価格は経済情勢に左右されるものの、F1スモールと比較すると雄で約10〜20万円、雌で約9万円以上高く販売されている。諸データは、当センターHP(http://www.liaj.or.jp/ivf/)で随時更新しているので、参考にして頂きたい。
 一方、地域一貫生産の例は少ないが、酪農家が生産した子牛を管内の肥育農家が購入して肥育し、ブランド化する方向を採用している地域もあり、その成果も出始めている。この形態は組織作りが重要なポイントであり、生産者間で不公平感が生まれないような取り決めと協力体制の維持が必要となる。
 体外受精卵を利用した黒毛和種子牛を成功に結びつけるためのカギは、
(1)受胎率を高める(受卵牛の発情発見、優れた移植技術者の確保)
(2)分娩、哺育の事故を防ぐ
(3)子牛を適正価格で販売する(市場の形成)
 の3点につきる。

技術の発展
 人工授精であれ受精卵移植であれ、生まれるまでは子牛の性は明らかでないが、黒毛和種肥育素牛生産を主眼に据えていることから、雄子牛の生産が経営的に望ましい。そこで、平成16年度から一部の体外受精卵は性を判別し、雄の受精卵のみを供給する展開を図った。さらに、現在では性判別技術から性選別精子(Y精子)を用いた体外受精卵の生産を実現し、供給体制を整備した。

繁殖素牛生産への体外受精技術の応用
 体外受精卵の利用は、主に酪農家の飼養する乳牛に移植して、黒毛和種肥育素牛の増産を主目的に行ってきたが、高齢あるいは事故等で子牛生産を断念して廃用せざるを得ない雌牛から子牛を生産できないかというニーズが求められた。それに応え、(社)全国和牛登録協会との協議の上、基本登録以上を有する雌から卵巣を採取して登記可能体外受精卵の生産も行っている。ただし、受託生産のみであり、一般販売は行っていない。

今後の展望
 後継牛生産を行わない乳牛の腹を利用して、F1と比して付加価値の高い黒毛和種肥育素牛の生産を提唱した体外受精卵の利用は、全国流通を開始してから10数年を経て、秀でた産肉性も証明され、実需者自身が利用方向を経営の中に取り込みメリットを見出している。さらに、種雄牛の種類を増やし、性判別あるいは選別精液の導入により、経営に有利な性の子牛を生産する技術まで展開を遂げてきた。
 世界でも類を見ない体外受精卵を利用した黒毛和種牛素牛生産は、黒毛和種という日本固有の遺伝資源のリサイクルでもあり、この技術が自給率向上のための一助となれば幸いである。