現在、行政機関及び関係農業団体等によって構成される全国飼料増産行動会議では、新たな「食料・農業・農村基本計画」に基づき、自給飼料の生産拡大を図るため、飼料作物の単収の向上等の施策に取り組んでいるところです。
一方、最近の資料(農林水産省 飼料をめぐる情勢、平成18年11月)によると、飼料作物の単位面積当たり収量は、近年微減ないし減少傾向にあり、その要因として草地更新の遅れによる牧草の単収の伸び悩みが指摘されています。
草地更新が遅れる理由については、一概には言えませんが、多くの労働時間を要することや、肥料費、種苗費、薬品費および機械購入費など多額の資金が必要なことなど、生産者への負担が大きいことが主な要因と考えられます。
そこで、近年生産現場から期待が寄せられている、低コストで生産力の高い草地に転換するための簡易な草地更新技術(簡易草地更新技術)について、家畜改良センターの事例を用いて紹介します。
それでは、なぜ草地更新は必要なのでしょうか?
草地は長年の利用によって
(1)牧草の株化や裸地化
(2)ルートマットの集積
(3)雑草の侵入により牧草の割合が低下すること
などの現象が発生し、一般に造成後2〜3年をピークに収量が徐々に減少し、期待した生産量が得られなくなります。このため、利用目的にあった優良な草種・品種を導入し、生産性を維持するためには、草地更新を少なくとも最高収量年の60〜70%となる10年を目処に行うことが大切です。
草地更新には、全面的に耕起して施肥、播種を行う完全草地更新法(以下、完全更新という)と草地の表層あるいは播種床部分を破砕・
攪はんして施肥、播種を行う簡易草地更新法(以下、簡易更新という)という方法があります。いずれの場合も、草地の低収化要因を見極め、更新方法を選択することが大切です。
−草地更新方法の選択の目安−
(1)完全更新
1.収量の低下が大きく、期待収量が得られなくなった場合
2.雑草が優占し、牧草密度か低下した場合
3.ルートマットが厚くなった場合
4.他の飼料作物を導入したい場合などに適します。
(2)簡易更新
1.牧草密度の低下が比較的少なく、収量低下の程度が軽い場合
2.草種構成の改善を図る場合
3.地形が複雑であったり石礫や切株などの障害物が多く、耕起による更新が困難な場合
4.低コストで更新したい場合などに適しています。
簡易更新は、経年化した草地の表層を攪拌するなどの処理を行い、播種床となる土壌を露出させ、播種を行う方法です。このため、完全更新に比べると作業工程を省略できることから、迅速かつ低コストで労力を軽減できることなどのメリットがあります。また、表土処理を基本とすることから、更新後の土壌浸食の危険が少ないなどの利点もあります。
−簡易更新の種類と特徴− | |||||||||||||||||||||||||
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家畜改良センターでは、飼料増産運動の取り組みの一環として、各牧場において簡易更新技術の現地検討会や実演会等を開催し、行政機関及び生産者等に簡易更新の方法や利点などを紹介するなど、技術の普及に努めているところです。
福島県西郷村の家畜改良センター本所においては、平成18年度の事業として東北農政局や福島県等との共催により、簡易更新技術に関する実演会を3回にわたり実施してきました。そこで、実演会で行った簡易更新の方法について次のとおり紹介します。
先述のとおり、草地更新には多くの労力と資金が必要となることから、なかなか踏み切れない生産者の方も多いのではないかと思います。しかし、状況によっては完全更新にこだわらなくても、低コストで省力的な簡易更新法により生産力の回復が期待出来る草地も多く存在するのではないでしょうか。家畜改良センター本所では写真のとおり、2年間放置した草地を、簡易更新によってきれいな草地へと甦らせることができました。
草地の経年化や雑草の侵入などによって生産量が低下してお困りの方は、簡易更新による草地更新を検討してみてはいかがでしょうか。