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No.2 繁殖管理技術の進展と生乳生産への影響に関する調査研究(平成17年2月)  雪印乳業株式会社酪農総合研究所

牛群検定における平均乳量がついに9,000kgを超え、酪農家数では成牛100頭以上の飼養階層のみが増加しているように、乳牛の高泌乳化と経営規模の拡大が著しい状況にあります。その一方で、分娩間隔の延長や授精受胎率の低下など、繁殖成績の低下が大きな問題になっています。このような傾向は今後も続くと予想され、牛の遺伝的能力に応じて繁殖管理技術はますます高度化すると考えられるでしょう。
繁殖成績を改善することは乳牛の生涯生産性の向上につながり、安定した乳牛頭数の確保を可能ならしめると考えられます。また、繁殖管理技術の進展の方向性は個々の酪農家の経営のみならず、今後の生乳生産にも影響を及ぼす問題でもあるのです。そこで、現状の繁殖管理技術が酪農家にどのように導入され活用されているか、さらに普及効果を上げるための方法は何か、また、繁殖技術の研究開発がどのような方向にあるのかについて調査研究を試みました。

課題の設定
本研究では、乳牛の繁殖管理技術に関わる課題に対して3つの側面から接近しました。

  繁殖成績に関わる要因分析

  繁殖成績の向上をめざす新たな技術の検証

  繁殖管理技術の進展が生乳生産量に及ぼす影響

繁殖成績に関わる要因分析
酪農専業地帯にて、農場主および担当授精師へのアンケート調査ならびに対象農場の牛群検定データをもとに分析しました。ほぼ同一環境下にあると思われる地域の酪農経営体100戸に対し、牛舎構造(繋ぎ又はフリー飼養)の違いによって、繁殖管理の実践方法、繁殖成績、繁殖に関する農場主の意識にどのような違いがあるのかを調べました。
フリー飼養は繋ぎ飼養にくらべ、飼養頭数、耕地面積、TMR給与の割合が多いことに加え、飛び地の所有、公共牧場の利用、乾乳牛を別飼いする割合、利用する発情発見方法の数が多く、粗飼料分析データの利用度が高い、周産期病の発生印象が少ないなどの特徴がありました。しかし、繁殖成績、繁殖管理の実践方法や経営主の繁殖に対する意識に、繋ぎ飼養との明瞭な差異は認められませんでした(表1)。
次に、繋ぎ飼養農場の繁殖管理の実態が平均分娩間隔などに及ぼす影響度を調べたところ、分娩間隔を短縮する要因は、「農場の発情発見力が非常に良い」、「効率目的の発情誘起を良く利用する」、「輸入精液を良く利用する」が上位を占め、逆に分娩間隔を延長させる要因としては、「繁殖障害の発生が多い」、「良い発情しか授精しない」、「良い牛の授精はかなり粘る」が上位を占めていました。また、発情誘起やET利用など繁殖管理における積極的な人為的制御が繁殖成績の向上につながることも示唆されています。

表1 繋ぎおよびフリー飼養における乳検データの比較

比較項目

繋ぎ飼養

フリー飼養

優位差

平均分娩間隔(日)±SD

418.9±23.8
[381.7〜505.7;n=83]

415.8±22.4
[383.3〜462.0;n=14]

N.D.

平均搾乳日数(日)±SD

186.0±20.0
[140.7〜258.3;n=83]

187.2±18.1
[164.3〜229.7;n=14]

N.D.

平均空胎日数(日)±SD

140.7±25.8
[101.7〜244.3;n=83]

139.0±24.2
[110.3〜197.3;n=14]

N.D.

平均乾乳日数(日)±SD

72.3±11.9
[55.0〜120.0;n=83]

65.7±7.7
[50.3〜79.0;n=14]

平均初回授精日数(日)±SD

84.1±16.6
[64.7〜168.3;n=83]

85.8±12.5
[67.3〜116.7;n=14]

N.D.

平均授精回数(回)±SD

2.2±0.4
[1.4〜3.5;n=83]

2.1±0.3
[1.8〜2.8;n=14]

N.D.

平均初回授精受胎率(%)±SD

39.5±9.3
[21.0〜64.0;n=83]

42,9±8.0
[29.7〜56.0;n=14]

N.D.

平均産次数(日)±SD

3.1±0.4
[2.2〜4.5;n=83]

3.0±0.3
[2.6〜3.6;n=14]

N.D.

体細胞リニアスコア±SD

3.2±0.5
[1.6〜4.3;n=83]

2.9±0.4
[2.0〜3.5;n=14]

除籍率(%)±SD

22.4±4.5
[1.6〜4.3;n=83]

23.6±5.8
[16.0〜40.0;n=14]

N.D.

平均未経産牛授精開始月齢(月)±SD

16.1±2.7
[12.0〜30.0;n=83]

15.6±2.1
[12.3〜20.0;n=14]

N.D.

平均初産分娩月齢(日)±SD

26.5±2.5
[21.7〜34.7;n=83]

26.4±2.5
[22.3〜30.3;n=14]

N.D.

**;P<0.01  *;P<0.05N.D.;有意差なし
註1)[ ]内は、レンジと標本数を示す。
註2)初回授精受胎率、除籍率(x%)はAsin√(x/100)*180/円周率で変換した数値を用いて検定した。

繁殖成績の向上をめざす新たな技術の検証
飼養規模・形態などが非常に多岐にわたっている昨今の酪農現場において、どのような繁殖管理が行われ、経営改善に向けてどのような工夫が凝らされているのかを明らかにするため、以下の4つに焦点をあて、全国の酪農場および関係団体の現地調査を行いました。
   (1)大型酪農経営における繁殖管理
   (2)高泌乳酪農経営における繁殖管理
   (3)先進的な繁殖管理を提供する獣医師と地域酪農の繁殖管理の実態
   (4)繁殖関連先端技術の利用実態
その結果、酪農現場が多様性に富むのと同様に、繁殖管理のスタイルもまた、地域や人に応じて多様性に富んでいました。また、牛群の変化(多頭化、発情兆候微弱化など)によって適切な繁殖管理がさらに難しくなった現状において、今後大きく注目されてくる技術として、ホルモン剤投与による排卵の人為的調節(オブシンク等)、発情発見補助器具(無線送信型歩数計)、受精卵移植技術が挙げられます。そして、これらの技術を活用するには、獣医師や授精師といった外部の繁殖支援者達の協力も不可欠といえます。

表2 高泌乳農場における経産牛全頭へのオブシンク利用による発情回数および使用精液数の推移

年(1月〜12月)

平成9年

平成10年

平成11年

平成12年

平成13年

平成14年

オブシンク利用状況

導入前

導入開始

約100%

約100%

約100%

a)授精頭数

55

57

58

52

51

52

b)延べ発情回数

161

142

168

102

115

105

c)延べ使用精液数

243

214

221

107

126

112

d)1発情当たり使用精液数(c/b)

1.51

1.51

1.32

1.05

1.10

1.07

e)1頭当たり発情回数(b/a)

2.93

2.49

2.90

1.96

2.25

2.02


繁殖管理技術の進展が生乳生産量に及ぼす影響
酪農学園短期大学部家畜育種学研究室との共同研究によって、北海道乳牛検定検査協会において蓄積された昭和55年、平成2年、平成12年(10年間隔)に分娩したホルスタイン乳牛の1泌乳期記録をもとに分娩間隔と産乳量(乳量/日;分娩間隔1日当たり乳量)の関連性について調査しました。
その結果、現在の牛の生乳生産に最適な分娩間隔とそれにもとづく拡大可能な生乳生産量を予測することはできませんでした。しかしながら、遺伝能力の向上や分娩間隔が短縮することで新たな指標とした“産乳量”が向上することや、この産乳量という指標が農場の意識に影響し、分娩間隔が延長していく蓋然性も指摘できました。

繁殖成績を低下させる要因を正確に把握し、適切に対処することは非常に難しいことです。農場主自身が、広い意味で牛の観察力を高めることが最も重要であることは言うまでもありません。今回の調査では、繁殖を改善するためにさまざまな角度から検討しました。その結果、繁殖管理技術に関する数多くのヒントを提供できたものと思います。